Vol.53 No.5 May 2005
原著・臨床
PK/PDパラメータおよびモンテカルロ法を用いたMRSA肺炎に対する塩酸バンコマイシン治療の効果予測
1)天理よろづ相談所病院臨床病理部*
2)同 薬剤部
要旨
当院においてvancomycin(VCM)治療を施行したmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)肺炎患者31例を対象に各種pharmacokinetic(PK)parameterと臨床効果との関係についてretrospectiveに検討を行った。VCM治療有効群21例および無効群10例のPK parameterをそれぞれMann-Whitney U-testで比較したところ,それぞれの中央値(四分位間)はCmaxで37.1 μg/mL(29.9~42)および32.3 μg/mL(29.5~36.1)(p=0.32),トラフ値で10.5 μg/mL(8~12.4)および8.7 μg/mL(6.7~11.2)(p=0.25),血中消失速度(Ke)で0.17/hr(0.10~0.22)および0.15/hr(0.11~0.17)(p=0.67),AUCで410 μg/mL・hr(349~455)および318 μg/mL・hr(302~328)(p<0.01)と,AUCのみ有意差を示した。有効群と無効群を分けうるAUCはReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線を用いる解析より330 μg/mL・hr(感度76.2%,特異度80.0%)と計算された。次に当院で分離されたMRSA 373株のMIC分布(MIC90 1 μg/mL)および有効群のAUC分布を用いて1,000例のモンテカルロ法を実施したところAUC/MIC≧330 μg/mL・hrを満たす確率は56.8%と計算された。
以上,VCM治療におけるAUCと臨床効果との相関が示されたが,AUC/MIC≧330 μg/mL・hrを満たす確率は低く,VCMの治療効果をあげるには,トラフ値をモニターしたうえで,1日投与量を増量するなどの,AUCやMICを活用した投与設計解析手法の導入が必要である。
Key word
MRSA, vancomycin, AUC/MIC, Monte Carlo simulation, pneumonia
別刷請求先
*奈良県天理市三島町200
受付日
平成17年1月26日
受理日
平成17年3月16日
日化療会誌 53 (5): 297-301, 2005