Vol.56 No.3 May 2008
市販後調査
外科・救急・集中治療領域におけるミカファンギンの臨床効果―AKOTTアルゴリズムを用いた検討―
1)慶應義塾大学医学部救急医学*
2)東邦大学医学部外科学第三講座
3)千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学
4)兵庫医科大学感染制御学
5)国士舘大学体育学部救急医学
要旨
ミカファンギンは本邦で初めて承認されたキャンディン系抗真菌薬であるが,外科・救急・集中治療領域での本薬剤の臨床効果は少数例での報告はあるものの,多数例での成績は報告されていない。今回63の医療機関の参加の下,市販後特別調査として本領域におけるミカファンギンの有効性と安全性を検討した。37.5℃以上の発熱を有し,かつ,真菌学的検査あるいは病理学的検査により真菌症と確定診断された症例,あるいは,ハイリスク要因を有し監視培養もしくはβ-D-グルカン血清診断により真菌症疑いと診断された症例にミカファンギンを投与し,抗真菌薬の薬効評価基準として新たに作成したAKOTTアルゴリズムを用いて有効性を評価した。登録症例180例のうち,除外基準に該当するなどの理由で68例を除外し112例を有効性評価対象とした。112例の内訳は,カンジダ症の確定診断例58例,アスペルギルス症の確定診断例1例,真菌症疑い例53例であった。ミカファンギンの最大1日投与量と投与日数の平均値は,それぞれ104 mg,14.2日であった。総合臨床効果は有効72例,無効28例,判定不能12例で,有効率は72.0%であり,診断名別有効率はカンジダ症78.6%(56例中44例),真菌症疑い65.1%(43例中28例)で,アスペルギルス症の1例は無効であった。また,ミカファンギン投与により67株中52株(77.6%)で真菌の消失が認められた。安全性評価対象178例中37例(20.8%)に69件の副作用が発現し,主なものは肝機能障害であったが,その発現に用量依存性は認められなかった。本薬剤との因果関係が明らかな副作用は薬疹1例であった。以上の結果から,ミカファンギンは外科・救急・集中治療領域における深在性真菌症に対して優れた臨床効果と高い安全性を示し,本領域での標的治療および経験的治療の第一選択薬になりえるものと考えられた。
Key word
micafungin, antifungal therapy, AKOTT algorithm, surgery, emergency and intensive-care
別刷請求先
*東京都新宿区信濃町35
受付日
平成19年11月30日
受理日
平成20年3月4日
日化療会誌 56 (3): 330-343, 2008