Vol.57 No.6 November 2009
原著・臨床
Extended-spectrum β-lactamase産生Escherichia coliによる敗血症患者の背景および治療効果に関する検討
1)健和会大手町病院総合診療科, 感染症内科*
2)産業医科大学泌尿器科
3)株式会社キューリン検査部
4)健和会大手町病院検査部
要旨
2008年3月から11月までに血液培養からExtended-spectrum β-lactamase(ESBL)産生大腸菌が検出された連続10名の患者について,その細菌学的特徴,臨床経過,予後について検討した。平均年齢82.3歳(59歳~103歳)。院内感染,老人施設からの入院,厳密な市中感染がそれぞれ4,5,1例であった。分離されたESBL産生Escherichia coliはimipenem,meropenem,piperacillin/tazobactam,flomoxefおよびamikacinに対して全株感受性を示した。Fosfomycin,faropenem,gentamicin,ST合剤が続いた。全株,levofloxacinに対して高度耐性を示した。臨床像はseptic shockが3例,severe sepsisが4例,sepsisが2例,non-sepsisが1例であった。感染巣は尿路感染が6例,primary sepsisが3例,胆管炎が1例であった。ESBLのtypeは,CTX-M-14 type単独が4株,CTX-M-14 typeとCTX-M-2 typeの両方をもつ株が2株,CTX-M-3 type保有株が2株であり,1株は保存されなかったため,検査できなかった。また,症例2と3を除く8株の染色体DNAのNot I切断後,パルスフィールドゲル電気泳動を行ったところ,2組同一クローンを認めたが,その他は異なったクローンであり,単一の株のアウトブレイクは認められなかった。予後に関しては,粗死亡率40%,14日以内の死亡率20%であった。治療薬としてflomoxefを使用した群では14日以内の死亡は6例中1例であり,imipenemを使用した群では2例中1例であった。FlomoxefはESBL産生E. coli敗血症に対し有用な抗菌薬であり,特に院内発症の敗血症患者に対する経験的治療には単剤ではスペクトルが足りないが,ESBL産生E. coliのデエスカレーションの選択肢としては優れた抗菌薬であると考えられる。今後carbapenem耐性株出現抑制のためにもcarbapenemの使用量抑制は重要な課題であり,ESBL産生菌に対するflomoxefの有用性を検討することは重要であると考える。
Key word
Escherichia coli, Extended-spectrum β-lactamase, bacteremia, flomoxef
別刷請求先
*福岡県北九州市小倉北区大手町15-1
受付日
平成21年5月25日
受理日
平成21年9月17日
日化療会誌 57 (6): 502-507, 2009