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書誌情報

Vol.59 No.6 November 2011

総説

わが国における侵襲性肺炎球菌感染症の実態とその予防としての肺炎球菌ワクチン

千葉 菜穂子

北里大学北里生命科学研究所病原微生物分子疫学研究室

要旨

 肺炎球菌は,抗菌薬が発達した現在においても,重篤な後遺症を残し,致命的ともなりえる侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal diseases:IPD)を惹起する。
 本論文では,本邦におけるIPDの実態と,ワクチン効果の予測に必要な莢膜型について,2006年度に実施した疫学成績を中心に述べる。
 IPD発症例は1歳以下,50歳以上に多く,また,疾患は小児では敗血症・菌血症が多かったが,成人では重症肺炎例が多くみられた。基礎疾患を有している発症例において,死亡や神経学的後遺症を残すリスクが高かった(小児:P=0.04,成人:P<0.01),入院直後の血液検査値のうち,WBCが5.0×109 cells/L以下,PLT値が130×109 cells/L以下であった症例において,予後不良となる確率の高いことが統計学的に明らかにされた。
 本邦では,小児用PCV7(pneumococcal conjugate vaccine)の任意接種が2010年から可能となったが,IPD例に対するカバー率は75%であった。一方,成人のIPD例に対するPPV23(pneumococcal polysaccharide vaccine)のカバー率は85%であった。小児と成人由来株の莢膜型は明らかに異なっていた。すなわち,小児分離株ではgenotype penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae(gPRSP)の多い6B,19F,14,23F型が優位であったが,成人においてはgenotype penicillin-intermediate S. pneumoniae(gPISP)の多い12F,3,6B,14型等が多くを占めた。このうち,成人の12F型株についてpulsed-field gel electrophoresis(PFGE)を行っているが,耐性遺伝子型が同じ菌株ではDNAプロファイルは同一であった。人口密度の高いわが国においては,新たな莢膜型の菌は短期間に全国へと拡散することが示唆された。また,菌の疫学情報を世界的に比較共有できるmultilocus sequence typingによる解析も行ったが,その解析結果からは,莢膜型の遺伝子領域においても遺伝子組み換え(capsular switching)の生じていることが示唆された。
 肺炎球菌は,i)6Cや11Eなどの新たな莢膜型の病原性の高い菌株の出現,ii)抗菌薬の選択圧による高度耐性化した菌の出現,iii)世界的な肺炎球菌ワクチンの普及によるcapsular switchingを生じた菌の出現等,自らを変化させながら進化してきている。IPDの感染制御のためにはワクチン接種は必須であるが,それと同時に世界的規模の疫学研究も必要であると結論される。

Key word

Streptococcus pneumoniae, invasive pneumococcal disease, pneumococcal vaccine

別刷請求先

東京都港区白金5-9-1

受付日

平成23年7月20日

受理日

平成23年7月27日

日化療会誌 59 (6): 561-572, 2011