Vol.60 No.2 March 2012
総説
予防投与としての抗菌化学療法と創傷処置―根治的膀胱摘除術の手術部位感染予防―
札幌医科大学医学部泌尿器科*
要旨
泌尿器科領域では,膀胱癌に対する外科的治療である根治的膀胱摘除術と,それに伴う腸管利用尿路変向(再建)手術において,他の泌尿器科手術と比較して合併症の頻度や死亡率が高い。合併症の一つとして手術部位感染症(surgical site infection;SSI)が挙げられるが,特に,根治的膀胱摘除術に伴う腸管利用尿路変向(再建)手術では,SSIの発症率が高いことが知られている。SSIを予防するためにさまざまな対応がとられてきており,過去の報告と比較してSSIの発症率は若干低下してきてはいるが,現在でも残念ながら満足すべき程度までの低下にはいたっていない。
周術期の感染予防抗菌薬投与は,欧米のガイドラインでは,手術から24時間以内とされ,日本では72時間から96時間と示されている。国内からの報告でも,24時間以内の投与で従来とSSIの発症率が変わらないとされており,今後は,投与期間が議論されることになる。投与抗菌薬については,第2,もしくは,第3世代セファロスポリン系薬の投与という点では一致している。ただし,国内では,MRSAがSSIの主要な分離菌になっている現状もあり,対応が困難な一因となっている。
この合併症の発現頻度が高い手術に対する処置や感染予防抗菌薬投与法などについて,新しい知見やレビューがいくつか報告されている。適正な投与期間,分離菌に応じた対策を含めて現状と今後の課題についてまとめた。
Key word
radical cystectomy, surgical site infection, prophylaxis
別刷請求先
*北海道札幌市中央区南一条西16丁目
受付日
平成24年1月5日
受理日
平成24年1月16日
日化療会誌 60 (2): 169-174, 2012