Vol.60 No.4 July 2012
原著・基礎
多剤耐性緑膿菌に対する抗菌薬3剤のin vitro併用効果
1)広島大学病院診療支援部
2)広島大学大学院医歯薬保健学研究院臨床薬物治療学*
3)広島大学病院検査部
4)同 感染症科
要旨
本研究では,多剤耐性緑膿菌(multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)に対する抗菌薬3剤のin vitro併用効果を検討した。広島大学病院において臨床検体から分離された緑膿菌で感染症法上のMDRP報告基準に該当した株,すなわち抗菌薬のMICがmeropenem(MEPM)≧16 μg/mL,ciprofloxacin(CPFX)≧4 μg/mL,amikacin(AMK)≧32 μg/mLのすべてを満たした40株を対象とした。併用した抗菌薬3剤の組み合わせは,i)MEPM+CPFX+AMK,ii)piperacillin(PIPC)+aztreonam(AZT)+arbekacin(ABK)であり,i)はMDRPの報告基準をもとに,ii)は荒岡らの報告をもとに3薬剤を選択した。これらの抗菌薬を組み合わせたチェッカーボードプレートを作成し,抗菌薬3剤の併用効果について検討した。各抗菌薬の平均MIC値を比較し,算出したfractional inhibitory concentration(FIC)indexにより分類された相乗作用と相加作用の総和を「併用効果あり」と判定した。さらに,i)抗菌薬3剤(MEPM+CPFX+AMK)の併用によりMIC値が低下した株について,MDRP報告基準に該当し続けるか否かを検討した。これらの検討の結果,i)MEPMのMIC値(平均±標準偏差)は,単剤で31.6±2.53 μg/mL,2剤併用のMEPM+CPFXで30.5±5.6 μg/mL,MEPM+AMKでは23.6±11.7 μg/mLであり,3剤併用のMEPM+CPFX+AMKでは18.5±12.2 μg/mLであった。CPFX,AMKについても,同様に単剤から2剤併用,3剤併用になるにつれて平均MIC値の低下が認められた。相乗作用が最も強かったのはMEPM+CPFX+AMKの4株(10.0%)であり,「併用効果あり」でも24株(60.0%)と最も大きかった。ii)PIPCのMIC値は,単剤8.0 μg/mL,2剤併用のPIPC+AZTで6.7±2.5 μg/mL,PIPC+ABKでは7.8±1.1 μg/mLであり,3剤併用のPIPC+AZT+ABKでは3.2±2.8 μg/mLであった。AZT,ABKについても同様に,単剤から2剤併用,3剤併用になるにつれて平均MIC値の低下が認められた。相乗作用が最も大きかったのはPIPC+AZT+ABKの13株(32.5%)であり,「併用効果あり」でも31株(77.5%)と最も大きかった。さらに,i)抗菌薬3剤(MEPM+CPFX+AMK)において,3剤併用によりMIC値が低下し,MDRP報告基準に該当する株の割合は100%(40/40)から42.5%(17/40)へと減少した。以上より,in vitroにおいて抗菌薬3剤の併用効果が示された。今後は,3剤併用療法の意義を明確にするうえで,他の組み合わせについてもin vitro併用効果データを集積し比較検討することが重要と考えられた。
Key word
multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa, checkerboard, FIC index
別刷請求先
*広島県広島市南区霞1-2-3
受付日
平成24年2月28日
受理日
平成24年4月13日
日化療会誌 60 (4): 469-477, 2012