Vol.61 No.2 March 2013
原著・臨床
抗菌薬および手指消毒薬使用量とMRSA分離率の検討
1)東京女子医科大学病院薬剤部*
2)同 中央検査部細菌検査室
3)東京女子医科大学感染対策部感染症科
要旨
JANISの報告によれば,日本のStaphylococcus aureusにおけるMRSAの割合(MRSA分離率)は2004年67%,2011年55%であり,近年減少傾向にあるが依然として高い。抗菌薬と手指消毒薬の使用動向がMRSA分離率にどのように影響しているか,2004年4月から2012年3月の入院患者を対象とし関連性を検討した。
2004年度から2011年度の総検体中のMRSA分離率は43.5%→31.9%,血液培養検体中は60.6%→40.6%と減少した。MRSA分離率低下と抗菌薬使用量(AUD)においてr=0.8以上のきわめて強い相関を示したのは,第1世代セファロスポリン系(r=-0.90,-0.99;総検体,血液),ペニシリン系(r=-0.87,-0.82),グリコペプチド系(r=-0.84,-0.86)の使用量増加および第2世代セファロスポリン系(r=0.85,0.91)の減少であり,擦式消毒用アルコール(r=-0.77,-0.89)の増加も相関が認められた。
バンコマイシンとともにMRSA分離率増加の危険因子である第3世代セファロスポリン系の使用量増加も認められたが,全AUDに占める割合は10%程度と低く,相対的使用量が少なければMRSA増加要因とならないことが考えられた。また,第1世代セファロスポリン系,ペニシリン系の使用量が増加し全AUDに占める割合が60%を超えていたことがMRSA分離率低下との関連を示唆していた。擦式消毒用アルコールの使用量増加とMRSA分離率低下は他施設でも報告され,院内教育による手指衛生の向上や経路別感染対策表示などが,水平伝播を抑え,新規MRSA患者の減少につながったと思われる。低いMRSA分離率の維持には,ICTを中心とした病院全体における包括的な抗菌薬適正使用管理・感染対策を継続していくことが重要と考える。
Key word
MRSA, antimicrobial use density (AUD), alcohol-based hand-rub, antimicrobial stewardship, ICT
別刷請求先
*東京都新宿区河田町8-1
受付日
平成24年10月22日
受理日
平成25年2月1日
日化療会誌 61 (2): 162-170, 2013