Vol.63 No.4 July 2015
原著・臨床
Levofloxacin 500 mg単回投与における前立腺組織移行性の検討
1)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科泌尿器病態学*
2)我孫子東邦病院泌尿器科
3)姫路聖マリア病院泌尿器科
4)NPO法人 岡山泌尿器科研究支援機構(OURG)
要旨
フルオロキノロン系薬は濃度依存性に殺菌作用を示し,尿路性器感染症においても広く使用されている。近年は淋菌や大腸菌,緑膿菌などにおいてフルオロキノロン耐性化が問題となっているが,2009年にフルオロキノロン系薬の一つであるレボフロキサシン500 mg製剤が販売開始となり,それまでの100 mg製剤の投与に比べPK-PD理論に沿う投与法となった。今回,レボフロキサシン500 mg単回投与の前立腺組織に対する移行性を検討した。対象は経尿道的前立腺切除術(TUR-P)を予定された患者で同意が得られた症例。尿路性器感染症を有する症例や1週間以内のフルオロキノロン系薬の投与歴のある患者,腎機能低下症(推定糸球体濾過量eGFR 30 mL/min/1.73 m2以下)例は除外した。手術開始2時間前にレボフロキサシン500 mgを経口摂取し,手術開始時に前立腺組織0.5 gと血液を採取した。薬物濃度は液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)法で測定し,患者背景や有害事象とともに解析した。エントリーされた5例の平均年齢は72.5±3.5歳,平均前立腺容積は56±21 mL,術前の平均前立腺特異抗原(PSA)値は3.56±2.17 ng/mL,推算糸球体濾過量eGFRは65.1±13.6 mL/min/1.73 m2であった。平均切除重量は25.0±13.0 gで,術後平均7±3日で退院した。抗菌薬によると思われる有害事象,術後の尿路感染症はみられなかった。1例からGleason score:3+2の腺癌が検出された。血清中のレボフロキサシン濃度は平均5.97±0.50 μg/mL,前立腺組織中のレボフロキサシン濃度は平均6.65±2.95 μg/gであった。平均対血清比(前立腺組織内濃度/血清中濃度:T/S比)は1.115±0.445で,レボフロキサシンの高容量投与でも良好な前立腺組織への移行が示された。また有害事象や術後の感染症もみられず,臨床的にもレボフロキサシン500 mg製剤の安全性,有用性が示唆された。
Key word
levofloxacin, prostate
別刷請求先
*岡山県岡山市北区鹿田町2-5-1
受付日
平成26年12月25日
受理日
平成27年3月6日
日化療会誌 63 (4): 406-410, 2015