Vol.64 No.3 May 2016
総説
バンコマイシン中間耐性MRSA(VISA)の耐性機構と復帰抗生物質
1)順天堂大学大学院医学研究科感染制御科学研究センター*
2)順天堂大学医学部微生物学教室
3)順天堂大学大学院医学研究科感染制御科学講座
4)微生物化学研究会
要旨
前世紀の化学療法の隆盛は,細菌感染症の克服,人類の健康増進,寿命の延長に大きく貢献した。しかし,21世紀に入ると病原菌の抗菌薬に対する耐性化に伴う難治性の感染症が増えてきた。耐性菌の出現は製薬会社による新規抗生物質の開発の意欲を削ぐことにも繋がった。しかし,耐性菌の出現は必然であり,人類の誕生よりはるか以前から耐性菌は存在していた。したがって,新時代の化学療法は耐性菌に対する創薬が必要である。私たちは,天然物のスクリーニングからキノロン耐性菌に強い抗菌力を有するが,キノロン感性株には抗菌力を示さない,ナイボマイシン(nybomycin;NYB)を発見した。NYBをキノロン耐性菌に作用させると,低頻度ではあるがNYB耐性菌が出現した。しかし,NYB耐性株はDNA gyraseに復帰変異を有しており,キノロン系薬に感性化していることが判明した。私たちは,NYBを復帰抗生物質(reverse antibiotic;RA)と命名した。この自然界から新しいジャンルの抗生物質を発見したことは,今後の抗菌薬開発に対する一つのヒントを与えるとともに,化学療法の再興に繋がると確信している。
Key word
MRSA, multi-drug resistance, reverse antibiotic, coevolution
別刷請求先
*東京都文京区本郷2-1-1
受付日
平成27年9月15日
受理日
平成28年2月29日
日化療会誌 64 (3): 503-512, 2016