Vol.65 No.1 January 2017
総説
妊産婦の抗菌薬使用の注意点
京都府立医科大学医学部看護学科医学講座産婦人科学*
要旨
妊婦の感染症は,性器感染症,尿路感染症,性感染症,呼吸器感染症などさまざまな感染症がある。多くの場合,妊娠している女性は,医師から処方された薬をためらうことが多く,処方する医師側でも妊婦にはできるだけ薬剤の投与を避けたいと考えている傾向がある。
妊娠期間の薬物体内動態の変化(腎機能,肝機能,分布容積蛋白結合の変化)を考慮したうえで,処方する必要がある。さらに母体に投与された薬物は,一部の例外を除いて胎盤を通過して胎児へ到達する。胎盤の通過性は妊婦へ投与する薬物を選択するうえで重要な因子である。
海外の公的リスクカテゴリーとして米国FDAのリスクカテゴリー,オーストラリアADECの分類がある。
昭和30年後半「抗生剤を母体に投与した際の胎児,新生児に及ぼす影響」の検討から出発し,妊婦に有用でない抗生剤の選別へと進展した。日本化学療法学会の活動の一つとして母子化学療法研究会が設立され,抗生剤の母児間移行,羊水濃度の意義,乳汁内移行などが検討された。
(1)安全と考えられる抗菌薬:ペニシリン系,セフェム系,マクロライド系,クリンダマイシン
(2)注意しながら使用可能な抗菌薬:アミノグリコシド系,メトロニダゾール,ST合剤,グリコペプチド系
(3)禁忌とされる抗菌薬:テトラサイクリン系,ニューキノロン系
これらをふまえて,妊婦自身が抗菌化学療法の必要性と安全性を理解できるように服薬指導し,治療に参加できる環境を整える必要がある。
Key word
antimicrobial chemotherapy, pregnancy, breastfeeding
別刷請求先
*京都府京都市上京区河原町通広小路上る梶井町465番地
受付日
平成28年8月25日
受理日
平成28年9月20日
日化療会誌 65 (1): 4-9, 2017