Vol.65 No.2 March 2017
原著・臨床
小児急性中耳炎に対する新規経口抗菌薬の医療経済学的影響の検討―医療費および保護者の生産損失の新規経口抗菌薬発売前後における比較―
1)特定医療法人グループ・プラクティス研究会藤沢御所見病院*
2)富山化学工業株式会社
要旨
近年の高齢化の加速や高度医療の開発の進展に伴い,わが国の保険医療費の高騰が一般にも注目されるところとなっている。このため,今後は医療コストを意識した診療のあり方への配慮が必要となると考えられる。
われわれは,小児急性中耳炎(acute otitis media:AOM)の疾病負担と7価肺炎球菌結合型ワクチン導入による医療経済効果の推計について検討し報告した。そこで今回,既報のディシジョンツリーを参考にした小児AOMの治療分析モデルを用いて,小児AOMに対する新規経口抗菌薬の医療経済学的影響を,医療費および保護者の生産損失より検討した。その結果,新規経口抗菌薬の適用により,従来薬の適用時に比べ121.8億円の医療費抑制と78.8億円の生産損失抑制が期待できることが明らかになった。
新規経口抗菌薬は小児AOMの難治化の抑制に有効であるが,薬剤耐性菌の出現抑制の立場から,適正使用を厳守すべきである。抗菌薬の適正使用とは,単にその使用を控えることではなく,その抗菌薬によってもたらされる患児や家族の負担軽減および経済性のメリットと,耐性菌出現のデメリットを考慮した使用と考える。このような抗菌薬適正使用および適正治療が医療経済的にも大きく寄与するものと考えられた。
Key word
acute otitis media, new oral antimicrobial agent, tosufloxacin tosilate hydrate, tebipenem pivoxil, medical economics
別刷請求先
*神奈川県藤沢市獺郷580番地
受付日
平成28年12月12日
受理日
平成29年1月13日
日化療会誌 65 (2): 192-205, 2017