Vol.65 No.6 November 2017
総説
Acinetobacter baumannii感染症の病態と宿主免疫の関係―新規細菌移動メカニズム“Bacterial immunity taxi”について―
帝京大学医学部微生物学講座*
要旨
Acinetobacter baumanniiは,薬剤耐性獲得能が非常に高く,世界中の医療機関で,院内感染の原因菌として問題となっている。A. baumanniiは通常は無害であるが,易感染宿主において,敗血症などを引き起こし,死亡率も高い。そのことから,宿主免疫細胞との相互作用が重要であると考えられる。細胞外増殖菌への感染防御においては,好中球が中心的役割を果たすことが知られているが,これまでA. baumanniiとヒト末梢血好中球の相互作用に焦点を当てた研究は少ない。近年,好中球の新たな生体防御機構として,好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps:NETs)が注目されている。そこで,A. baumanniiに対する好中球の応答性をNETsに焦点を当て解析した。その結果,好中球は緑膿菌に対しては,NETs形成を介し感染防御に寄与することが示されたが,A. baumanniiに対しては,NETs形成が認められず,感染防御機構が正常に働かないため,殺菌できないことが明らかになった。さらに詳しく,好中球とA. baumanniiの相互作用を解析したところ,A. baumanniiは好中球の感染防御機構を回避し,逆に好中球をタクシーのように感染部位に呼び寄せ,利用し,感染拡大を引き起こす,新規細菌移動メカニズム“Bacterial immunity taxi”の可能性が示された。今後,さらに詳しいA. baumanniiと宿主細胞との相互作用を解明し,感染制御,診断/治療に繋げることを目指している。
Key word
Acinetobacter baumannii, neutrophil, neutrophil extracellular traps(NETs), Bacterial immunity taxi, sepsis
別刷請求先
*東京都板橋区加賀2-11-1
受付日
平成29年1月5日
受理日
平成29年5月10日
日化療会誌 65 (6): 794-802, 2017