Vol.66 No.3 May 2018
総説
グローバルな視点からの新薬開発の現状と今後の展望―薬剤耐性菌感染症に対する医薬品開発について―
MSD株式会社グローバル研究開発本部*
要旨
薬剤耐性菌感染症に対する治療薬は,公衆衛生上の重要な公共財であり,学会・国・企業の協力があって初めて世の中に対するわれわれの責務を果たすことができる。全世界的にこの分野では,これら関係するステークホルダーの歯車が合っていない時期が長く続き,その結果として新薬の開発は停滞し,ほとんどの製薬会社はこの分野の研究開発から撤退した。
しかしながら,近年欧米では,社会的な要請と差し迫った必要性から,国家主導の研究・開発・審査・特許・薬価等に関する強力な促進策が導入されたことにより,この分野での新薬の開発・承認事例が再び少しずつ出始めている。日本では,感染管理の充実や島国として他国から離れているなどの理由から,耐性菌に関する問題は散発的にニュースにはなるものの,幸い,大きな脅威とは認識されていない状態が続いてきた。一方,海外との人の往来の増加,パンデミック的な感染症に関するニュースの増加,およびイムノコンプロマイズトホストの医療現場での増加等も考慮すると,耐性菌に対する十分な備えをしなければならない重要な時期に来ている。そのようななか,かつて抗菌薬開発において世界をリードしてきたわが国でも,2016年4月に「薬剤耐性対策アクションプラン」を策定し,国家戦略として,産官学連携にてこの分野に力を入れていく機運が盛り上がってきている。
研究開発主導型製薬会社の日本組織でグローバル開発にかかわる一個人として,この機運を逃すことなく,薬剤耐性菌感染症に対する新薬開発を促進していきたいと考えている。本総説では,新薬開発の現状と今後の展望について述べる。
Key word
antimicrobial agent, new drug development, drug resistant bacterium
別刷請求先
*東京都千代田区九段北1-13-12 北の丸スクエア
受付日
2017年11月29日
受理日
2017年12月7日
日化療会誌 66 (3): 351-358, 2018