Vol.67 No.1 January 2019
原著・基礎
質量分析法を用いた基質特異性拡張型βラクタマーゼ産生菌検出法の構築に関する検討
1)静岡市立清水病院検査技術科*
2)東京医療保健大学大学院医療保健学研究科
3)島津製作所分析計測事業部グローバルアプリケーション開発センター
要旨
近年,マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF MS)を用いた微生物同定法が臨床応用され,低コストで迅速性と正確性に優れた微生物同定が実現した。さらに薬剤耐性菌の早期検出に向けた研究が行われている。カルバペネマーゼ産生菌に対して,抗菌薬とその加水分解産物をMALDI Biotyperで捉えることにより検出できることが報告されているが,VITEKⓇ MSで検討された報告は少ない。本研究は,基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBLs)の検出を目的として,VITEKⓇ MSを用い,cefotaxime(CTX)を基質として加水分解産物の確認を試みた。供試菌株はEscherichia coli ATCCⓇ 25922TM(感性株),E. coli NCTC 13462(blaCTX-M group 2産生株)およびKlebsiella pneumoniae ATCCⓇ BAA-1705TM(KPC産生株)とした。CTXを生理食塩水で溶解し,35℃,60分間反応後のマススペクトルは,455.77 Da(プロトン付加体)と477.85 Da(ナトリウム付加体)のシグナルが確認された。2-cyano-4-hydroxycinnamate(CHCA)の2量体のシグナル強度を用いて標準化した相対シグナル強度I456およびI478とCTX量との間に直線関係が認められた。CTXとE. coli NCTC 13462の菌懸濁液を混和後のマススペクトルには,369.86 Daと413.74 Daの新たなシグナルが観察された。カルバペネマーゼ産生菌でも同様のシグナルが確認された。以上のことから,VITEKⓇMSにおいてもCTXとβラクタマーゼによる反応生成物を捉えることによりESBLsの検出が可能であることが確認された。さらに,MALDI-TOF MSで検出可能な化合物は,シグナル強度を標準化することでCTXに対するESBLs産生菌の薬剤感受性を推察できる可能性が示唆された。
Key word
antibiotics, antibiotic resistance, MALDI-TOF MS, cefotaxime, hydrolysis
別刷請求先
*静岡県静岡市清水区宮加三1231
受付日
2018年5月2日
受理日
2018年8月28日
日化療会誌 67 (1): 29-37, 2019