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書誌情報

Vol.67 No.2 March 2019

総説

「呼吸器感染症の分子メカニズム」呼吸器感染症における炎症の分子病態とその治療戦略

滝澤 始

杏林大学呼吸器内科

要旨

 かつてきわめて難治性とされた慢性下気道感染症であるびまん性汎細気管支炎において,マクロライド少量長期療法が著効を示すことが明らかにされて以来,呼吸器感染症における炎症の分子病態とその制御が大きくクローズアップされるようになった。呼吸器感染症の第一義的な宿主の防御反応を演じるのは好中球であるが,その過剰な集積や活性化は,肺の傷害を引き起こし予後不良の結果をもたらす。細菌やウイルス由来の活性化分子は気道・肺胞上皮細胞に発現するtoll-like receptor(TLR)などと結合してinnate immunityを誘導し,その一連の反応はIL-8をはじめとするサイトカイン,ケモカインの産生増強を介して好中球の病変局所への動員や活性化に大きく関与している。また,その細胞内機構として転写調節因子のNFκBなどの役割も明らかにされつつある。これらの外因性・内因性刺激分子は抗菌活性分子であるdefensinの誘導,さらに酸化ストレス/抗酸化酵素群のバランスを変化させて,宿主の炎症免疫反応に大きな影響を及ぼす。マクロライド療法は,種々の炎症性刺激によってもたらされるIL-8の産生を転写因子のレベルで正常近くまで抑制し,好中球の集積や活性化を制御することが判明した。一方でマクロライドはdefensinや抗酸化酵素群の誘導など宿主に有利な増強作用も有することも報告されている。急性の重症呼吸器感染症やARDS,インフルエンザなどでのサイトカイン過剰状態の意義が広く認識されるに及んで,従来,慢性気道感染症を中心に論じられてきたマクロライド療法は,それらの急性呼吸器炎症病態の制御戦略としても注目されるようになった。すなわち,これら急性呼吸器感染症においても実験的および臨床的な検討が進められ,その有用性が報告されている。さらにCOPDや難治性の好中球性喘息などの増悪の多くが,ウイルスや細菌感染症を契機にすることより,マクロライド療法の治療応用が行われている。今後は抗菌作用をもたない抗炎症薬が開発され,呼吸器感染症における新たな炎症制御の治療戦略が確立されることが期待される。

Key word

pneumonia, inflammation, macrolide, anti-inflammatory drug

別刷請求先

東京都三鷹市新川6-20-2

受付日

2018年9月13日

受理日

2018年10月19日

日化療会誌 67 (2): 161-168, 2019