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書誌情報

Vol.67 No.2 March 2019

総説

感染症における鉄代謝~宿主,病原体,抗微生物薬の視点から~

茂呂 寛

新潟大学医歯学総合病院感染管理部

要旨

 鉄は生体にとって必須の金属元素であるが,有害にもなる二面性をもち,生体内で厳密に管理されている。一方,鉄は細菌にとっても不可欠な栄養素であり,鉄に親和性の高い小分子シデロフォアを産生し,鉄を捕捉,回収することにより効率良く鉄を獲得する仕組みをもっている。今世紀初頭に鉄代謝の主要な調節因子であるヘプシジンが発見されて以降,さまざまな病態における鉄の関与が明らかになった。ヘプシジンは感染症発症の際に,インターロイキン6(IL-6)を介した刺激により肝細胞で産生され,鉄の輸送体であるフェロポルチンに結合して分解を促すことにより,小腸上皮細胞やマクロファージからの鉄の運搬を抑制し,結果として血清鉄濃度を低下させる方向に作用する。感染症に伴う血清鉄濃度の低下や二次性貧血は以前より経験的に知られていたが,ヘプシジンの作用によるものとして理解されるとともに,感染症に伴う鉄代謝の調整は,細菌の鉄獲得を制限することによりその増殖を抑制する,宿主による防御能の一環とも捉えられる。ヘプシジン以外の宿主側がもつ鉄調整因子としては,細菌が産生したシデロフォアへの結合により細菌における鉄取り込みを阻害するリポカリン2や,ファゴソーム内の鉄濃度を調整するNramp 1が知られている。シデロフォアは細菌表層上のレセプターを介して菌体内に取り込まれるが,この機序を標的とした抗菌薬の開発が進められてきた。セファロスポリンにシデロフォア構造を側鎖にもつcefiderocol(S-649266)は,菌側の鉄輸送経路を利用して能動的に外膜を透過することが可能であり,耐性グラム陰性菌に対する優れた抗菌活性が報告されている。このように,鉄代謝という新たな軸により感染症の病態を捉え直すことによって,病態のさらなる理解に加え,診療の分野への応用が期待される。

Key word

hepcidin, siderophore, lipocalin 2, Nramp 1, cefiderocol

別刷請求先

新潟県新潟市中央区旭町通1-754

受付日

2018年8月28日

受理日

2018年10月26日

日化療会誌 67 (2): 169-175, 2019