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書誌情報

Vol.69 No.3 May 2021

症例報告

セフトリアキソンによる抗菌薬関連脳症を発症した透析患者の1例

中野 祐樹1, 2), 水田 滋久3), 大竹野 久雄1), 松本 太一4), 右田 啓介4), 原 周司4), 横尾 賢乗1)

1)福岡県済生会二日市病院薬剤部
2)九州大学大学院医学系学府感染制御医学
3)福岡県済生会二日市病院脳神経内科
4)福岡大学薬学部医薬品情報学

要旨

 頻度は少ないが抗菌薬の副作用として抗菌薬関連脳症(antibiotic-associated encephalopathy:AAE)が知られており,Type IからIIIに分類される。セフトリアキソン(CTRX)はType IのAAEを誘発し,特に高齢者や慢性腎臓病患者ではそのリスクが高いと考えられている。今回,末期腎不全の虚血性腸炎による菌血症疑いに対してCTRX(2 g/day)を投与したことでAAEを発症し,CTRXの脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)濃度から診断にいたった1例を報告する。
 患者は71歳男性,CTRXを投与6日目に異常行動を認め,9日目には意思疎通は不可能となり,右共同偏視や手の上げ下ろしなどの同じ動作を繰り返していた。髄膜炎を疑い,腰椎穿刺を行ったが否定的であった。われわれは脳炎や脳症の可能性が高いと考え,CSF中のCTRX濃度を測定したところ4.87 μg/mLと非髄膜炎患者の4倍以上に上昇していた。そのためCTRXによるAAEと診断し,CTRXからレボフロキサシンへ変更したところ徐々に意識レベルは改善した。
 腎機能低下や高齢者などのリスク因子をもつ患者へCTRXを投与する際には,AAEに注意が必要である。また,CSFはCTRXの脳への移行性を評価することができる方法の一つであり,CSF中のCTRX測定はAAEの診断に有用な可能性があると考えられる。

Key word

ceftriaxone, adverse effect, antibiotic-associated encephalopathy, cerebrospinal fluid concentration, hemodialysis

別刷請求先

福岡県筑紫野市湯町3―13―1

受付日

2020年9月11日

受理日

2021年1月7日

日化療会誌 69 (3): 286-292, 2021