Vol.70 No.3 May 2022
原著・臨床
迅速PCR法導入が黄色ブドウ球菌菌血症患者に与えるアウトカムの検討
1)豊田厚生病院薬剤部*
2)同 感染症内科
3)同 総合内科
4)同 感染制御部
5)同 臨床検査室
要旨
Staphylococcus aureus菌血症(SAB)において迅速に検出菌の薬剤感受性が判明すれば,早期からより適切な抗菌薬選択が可能となる。豊田厚生病院(以下,当院)では2019年5月20日よりmethicillin-resistant S. aureus(MRSA)の耐性遺伝子検出のための迅速polymerase chain reaction(rPCR)を導入した。本検討では当院におけるSAB症例をpre-PCR群(2018年4月1日から2019年5月19日)とpost-PCR群(2019年5月20日から2020年8月31日)に群分けし,後方視的にその有用性について検討を行った。主要評価項目はmethicillin-susceptible S. aureus(MSSA)菌血症に対する抗MRSA薬使用割合,MRSA菌血症に対して血液培養採取から抗MRSA薬開始までに要する時間とした。副次的評価項目は28日以内死亡,empiric therapyにおける抗菌薬費用,入院期間とした。
解析対象となったのはpre-PCR群62症例,post-PCR群62症例であった。Post-PCR群ではMSSA菌血症において,抗MRSA薬使用割合は有意に低くなり(52.3% vs. 26.7%,p=0.017),MRSA菌血症に対して血液培養採取から抗MRSA薬開始までに要する時間は有意に短くなった(47.6 hours vs. 26.1 hours,p=0.042)。28日以内死亡に有意差はなく(16.1% vs. 21.0%,p=0.645),empiric therapyにおける抗菌薬費用(3,128円 vs. 2,910円,p=0.816)や入院期間においても有意差はなかった(33.5 days vs. 25.5 days,p=0.184)。
rPCRの導入により,MSSA菌血症に対する抗MRSA薬使用の削減やMRSA菌血症に対する早期からの抗MRSA薬を処方することが可能となった。
Key word
Staphylococcus aureus, bacteremia, mecA, PCR, rapid detection
別刷請求先
*愛知県豊田市浄水町伊保原500-1
受付日
2021年8月30日
受理日
2022年2月14日
日化療会誌 70 (3): 326-333, 2022