Vol.72 No.2 March 2024
症例報告
末梢静脈カテーテル留置困難なMRSA菌血症患者に対してteicoplanin皮下投与を施行した1例
1)静岡県立総合病院薬剤部*
2)同 感染対策部
3)同 臨床検査科
要旨
症例は49歳女性。クローン病を背景とした,難治性小腸皮膚瘻,小腸膣瘻,腹腔内膿瘍に対して,マイルズ手術および小腸部分切除(術後の残存小腸110 cm),膿瘍ドレナージ目的で入院し,腹腔内膿瘍の治療として約6週間抗菌薬を投与した。治療終了後5日目に39.9℃の発熱と中心静脈カテーテル(CVC)刺入部の発赤および排膿を認めた。血液培養からmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)が検出されたため,カテーテル関連血流感染症と診断した。
CVCを抜去し,vancomycin(VCM)点滴静注による治療を開始した。複雑性MRSA菌血症として,血液培養陰性化確認日から4週間の治療期間を予定していたが,VCMを3週間投与した時点で末梢静脈カテーテルの留置が困難となったため,teicoplanin(TEIC)皮下投与に変更することで合計4週間の治療を完遂した。VCM点滴静注の代替案としてlinezolid(LZD)内服とTEIC皮下投与が候補となったが,短腸であることによるLZD内服の吸収率低下の可能性を考慮してTEIC皮下投与を選択した。
TEIC開始後4日目のトラフ濃度は37.7 μg/mLであり,有効血中濃度に達していた。皮下投与刺入部の疼痛および腫脹は軽度であったことから,MRSA感染症に対してTEIC皮下投与は治療選択肢の一つとなり得ると考える。
Key word
teicoplanin, subcutaneous administration, MRSA, catheter-related bloodstream infection
別刷請求先
*静岡県静岡市葵区北安東4-27-1
受付日
2023年7月4日
受理日
2023年11月6日
日化療会誌 72 (2): 148-153, 2024