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書誌情報

Vol.73 No.3 May 2025

原著・臨床

慢性心不全患者における糖尿病の既往がナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬による尿路感染症発症に与える影響

若林 和貴1), 岡田 直人1), 河口 義隆1), 崎山 達矢1), 税所 篤行1), 高砂 美和子1), 北原 隆志1)

1)山口大学医学部附属病院薬剤部

要旨

 ナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT)2阻害薬は尿中へのグルコース排泄を促進する作用を有するが,糖尿病患者の尿路感染症発症リスクを増加させる可能性が指摘されている。近年,SGLT2阻害薬は慢性心不全に適応拡大され,非糖尿病患者への投与が開始された。しかし,慢性心不全患者において,糖尿病の合併がSGLT2阻害薬による尿路感染症に対して与える影響については未だ明らかにされていない。本研究は,慢性心不全患者における糖尿病の既往とSGLT2阻害薬による尿路感染症発症との関連を解析することを目的とした。2020年12月から2022年10月に慢性心不全の病名を有し薬物治療が行われている患者のうち,尿培養検査が実施されている患者を対象とした。対象患者を糖尿病病名の有無によって糖尿病合併群と非合併群に群分けし,両群におけるSGLT2阻害薬投与の有無による尿路感染症発症頻度を比較した。糖尿病非合併慢性心不全患者のうち,尿路感染症非発症群(n=242)のSGLT2阻害薬投与頻度は11.2%,尿路感染症発症群(n=20)は10.0%であり,両群間で差はなかった。一方で,糖尿病合併慢性心不全患者のうち,尿路感染症非発症群(n=308)のSGLT2阻害薬投与頻度は15.6%,尿路感染症発症群(n=41)は29.3%であり,尿路感染症発症群でSGLT2阻害薬投与頻度が有意に高かった(p=0.045)。性別と年齢を共変量とした多変量ロジスティック回帰分析の結果,糖尿病非合併群ではSGLT2阻害薬は尿路感染症発症のリスク因子ではなかったのに対し(オッズ比0.86,95%信頼区間0.18~4.09),糖尿病合併群ではSGLT2阻害薬は尿路感染症発症のリスク因子として同定された(オッズ比2.62,95%信頼区間1.22~5.62)。本解析から,慢性心不全患者におけるSGLT2阻害薬の使用に伴う尿路感染症発症のリスクは,糖尿病の合併の有無により異なる可能性が示された。

Key word

sodium-glucose cotransporter 2 inhibitor, urinary tract infection, diabetes mellitus

別刷請求先

山口県宇部市南小串1-1-1

受付日

2024年7月31日

受理日

2025年1月7日

日化療会誌 73 (3): 279-285, 2025