Vol.73 No.5 September 2025
原著・臨床
白山ののいち地域における急性気道感染症に対する抗菌薬の使用に関する観察研究~傾向スコア分析による2019年と2023年調査の比較
1)白山ののいち感染対策ネットワーク
2)公立つるぎ病院感染対策室
3)公立松任石川中央病院薬剤室
4)青い森薬局
5)ばんどう内科・呼吸器クリニック*
6)金沢医科大学臨床感染症学
要旨
抗菌薬使用に伴う薬剤耐性(AMR)は公衆衛生上の重要な課題であり,日本においてもAMR対策アクションプランが策定されている。今回,外来診療における抗菌薬の適正使用に関する基礎資料を得ることを目的に,2019年と2023年に石川県内の医療機関の医師を対象として抗菌薬使用状況とその意識に関する調査を実施し,経年変化を比較検討した。
石川県白山市および野々市市の医療機関に所属する医師を対象にアンケート調査を実施した。無記名式の質問票を郵送で配布・回収し,診療科目,医療機関の形態,感染対策加算算定の有無,年齢,急性気道感染症に対する抗菌薬使用状況とその要因などを調査した。回答者の背景のばらつきを補正するため,傾向スコアマッチングを用いて両群からそれぞれ85例を抽出し,比較を行った。
2回の調査結果を比較したところ,統計的な有意な差を伴わないものの,基礎疾患がない症例に対して最も多く処方された抗菌薬が,2019年にはマクロライド系,セフェム系,ペニシリン系の順であったのに対し,2023年にはマクロライド系,ペニシリン系,セフェム系の順と,抗菌薬選択傾向に変化がみられた。一方,基礎疾患がある症例に対して最も多く処方された抗菌薬は,ペニシリン系およびセフェム系が増加,マクロライド系およびフルオロキノロン系が減少と有意な変化がみられた。また,AMR対策アクションプランに関する認知度はやや低下傾向がみられた。
急性気道感染症に対する選択薬としてペニシリン系の増加,マクロライド系の減少は,AMR対策アクションプランの目標に一致する変化であった。AMR対策アクションプランの基本指針の継続的な周知と,抗菌薬適正使用に関する臨床現場での啓発が今後さらに重要と考えられる。
Key word
antimicrobial stewardship, acute respiratory infection, national action plan, propensity score matching
別刷請求先
*石川県白山市布市1丁目113番地
受付日
2025年4月1日
受理日
2025年6月12日
日化療会誌 73 (5): 368-377, 2025