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書誌情報

Vol.73 No.6 November 2025

原著・基礎

ナノ液滴の高速衝突がbiofilm形成Pseudomonas aeruginosaに与える影響

田村 友梨奈1), 河村 真人1), 中嶋 智樹2), Liu Siwei2), 佐藤 匠1), 佐藤 岳彦2), 藤村 茂1)

1)東北医科薬科大学大学院薬学研究科臨床感染症学教室
2)東北大学流体科学研究所

要旨

 高速ナノ液滴技術は2017年に開発された世界初の技術であり,水蒸気の凝縮を利用して直径100 nm以下にまで微細化したナノ液滴群を生成・高速照射できる。本研究では,衝撃圧18 MPaのナノ液滴がbiofilm形成Pseudomonas aeruginosaに与える影響を検討した。被検菌株は,東北地方の医療機関で臨床分離されたmultidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa(MDRP)5株および標準株P. aeruginosa PAO1とした。これらのbiofilm形成モデルに対し,直径100 nmのナノ液滴を18 MPaの衝撃圧で20~30分間照射した後,生残菌数,biofilm形成量および細胞外マトリックス量の測定,さらにscanning electron microscope(SEM)による菌の形態観察を行った。ナノ液滴を20分間照射した時に生残菌数の有意な減少は認められなかったもののbiofilmを構成する多糖体およびextracellular DNA(eDNA)量が減少した。この時biofilm形成量も低下したためbiofilmを構成する多糖体およびeDNAの低下がbiofilm構造の脆弱化を促進したと考えられた。一方,30分間照射後には6株すべてで生残菌数が減少し,特にMDRP-5では99.9%以上の殺菌効果を示した。SEMで観察すると,PAO1において菌体への穴の形成,MDRP-5では菌体崩壊が観察された。したがって,高速ナノ液滴技術はbiofilm構造を破壊し,物理的な衝撃によってP. aeruginosaを殺菌することが明らかとなった。この殺菌効果はbiofilm形成量が少ない菌株ほど高くbiofilmが破壊されることによりナノ液滴による殺菌効果が発揮されると考えられた。本技術は化学薬剤を使用せず,水のみで物理的作用による殺菌が可能であるため,菌株の薬剤感受性に関係なく殺菌効果を発揮できる。今後のさらなる検討を経て実用化されることにより殺菌法の選択肢が増える可能性が期待される。

Key word

Pseudomonas aeruginosa, biofilm, nano droplet, extracellular matrix

別刷請求先

宮城県仙台市青葉区小松島4-4-1

受付日

2025年4月11日

受理日

2025年7月8日

日化療会誌 73 (6): 563-571, 2025