Vol.73 No.6 November 2025
原著・臨床
残薬廃棄を避けたvancomycin投与方法の有益性評価
1)東京都立多摩北部医療センター薬剤科*
2)同 血液内科
3)明治薬科大学総合臨床薬学教育研究講座治療評価学
要旨
グリコペプチド系抗菌薬であるvancomycin(VCM)は,pharmacokinetic/pharmacodynamic(PK/PD)パラメーターに基づいたtherapeutic drug monitoring(TDM)の研究報告は多いが,VCM調製時の残薬廃棄削減による医療経済性に対する報告はない。われわれは,過去10年以上にわたって残薬廃棄を避けたVCMのTDMを実施してきたため,その有益性について後方視的に評価した。2010年3月1日から2021年7月31日の期間で過去に当院でVCMの使用歴がない症例のうち,VCM 250 mgの残薬廃棄が想定される症例を対象とした。残薬廃棄が想定される症例のうち,研究対象をVCMの残薬廃棄が発生するLOSS投与と残薬廃棄が発生しない非LOSS投与の2群に分類し,投与方法の違いによる有効性および安全性を0~24時間のarea under the concentration time curves(AUC0-24)と急性腎障害(acute kidney injury:AKI)の発症数で評価した。研究対象はLOSS投与群が16例,非LOSS投与群が35例の計51例であった。AUC0-24とAKIの発症数は,両群において共に差は認められなかった(p=0.147,p=0.664)。一方,VCMの廃棄率のシミュレーションでは,非LOSS投与を行うことで,VCMの残薬廃棄が1症例あたり25%削減された。昨今の医薬品供給の不安定な状況において,VCMの残薬廃棄を削減することはVCMの安定供給の一助になると考える。
Key word
vancomycin, dosage regimen, medical economics, therapeutic drug monitoring
別刷請求先
*東京都東村山市青葉町1-7-1
受付日
2024年10月30日
受理日
2025年7月7日
日化療会誌 73 (6): 580-587, 2025


