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書誌情報

Vol.73 No.6 November 2025

原著・臨床

Cefmetazoleによる凝固機能障害と背景因子の検討~単施設後方視的研究~

立石 翼1), 根石 茉実1), 滝波 昇悟1), 今滝 修2), 羽井佐 実3), 上原 慎也4)

1)川崎医科大学総合医療センター薬剤部
2)同 中央検査部
3)同 外科
4)同 泌尿器科

要旨

 セファマイシン系抗菌薬のcefmetazole(CMZ)は,その構造中にN-methylthiotetrazole基(NMTT基)を有しており,ビタミンKエポキシド還元酵素を阻害し,ビタミンKの代謝を阻害することで血液凝固系に影響を与えることが知られている。これにより,プロトロンビン時間-国際標準化比(PT-INR)の延長がみられ,出血リスクの増大が問題となる。NMTT基を有する抗菌薬によるPT-INR延長の症例報告は散見されるが,多数例での延長時期や背景因子などをまとめた報告は少ない。本研究では,CMZを使用した患者149名を対象に,CMZ投与開始後のPT-INR延長の有無や延長時期などについて後方視的に調査した。PT-INRは,CMZ投与前は1.05,CMZ投与後は1.09で有意に延長(p<0.01)。高齢(70歳以上)患者(n=104),腎機能障害(60 mL/min/1.73 m2未満)患者(n=55),周術期にCMZを使用した患者(n=94)でもCMZ投与開始後にPT-INRの有意な延長がみられた(それぞれ,1.05 vs. 1.16,p<0.01,1.05 vs. 1.14,p=0.03,1.02 vs. 1.09,p<0.01)。CMZ使用患者のPT-INR延長の中央値は0.21(IQR,0.15~0.28)であった。PT-INRの延長は,85.7%の患者でCMZ開始2日以内にみられ,早期のPT-INRモニタリングが有用であることが示唆された。一方,CMZ中止後PT-INRが投与前の値に改善するまでに中央値で3日間を要したため,出血イベントを回避するためにはPT-INRの延長がみられた場合には早期にCMZを中止する必要がある。CMZは術後感染予防抗菌薬として広く使用されており,特に抗凝固薬を内服している頻度が高くなる高齢者が周術期にCMZを使用する場合は術後3日間程度のPT-INR測定が適切と考えられた。

Key word

cefmetazole, cephamycin, coagulopathy, prothrombin time, risk factor

別刷請求先

岡山県岡山市北区中山下2-6-1

受付日

2025年2月7日

受理日

2025年7月7日

日化療会誌 73 (6): 588-596, 2025