Vol.74 No.5 September 2026
原著・臨床
周産期感染症の低リスク患者における経腟分娩後の予防的な抗菌薬投与中止に伴う産褥熱発生に関する実態調査
1)小山記念病院薬剤部
2)同 産婦人科
要旨
周産期感染症は依然として妊産婦死亡の主要因であり,慢性骨盤痛や不妊など長期的後遺症の要因にもなる。帝王切開は創部や骨盤内感染のリスクが高いとされ,術前抗菌薬投与が推奨されている。一方,経腟分娩後は感染リスクが相対的に低く,国際的なガイドラインでは抗菌薬のルーチン投与を推奨していない。しかしわが国では,経腟分娩後に感染予防を目的とした抗菌薬の投与が慣行的に行われている施設が多く,その妥当性が問われている。
当院では,経腟分娩を経験したすべての褥婦に対し,感染症予防を目的として抗菌薬(経口第3世代セフェム系抗菌薬であるcefcapene pivoxil)のルーチン投与が5日間行われていた。本研究では,この予防的な抗菌薬投与を中止し,経腟分娩後の産褥熱の発生状況を電子診療録より後方視的に調査した。また,産婦健康診査である産後2週間および1カ月後までの間における発熱の有無を確認した。
その結果,産褥熱や産婦健康診査までの間に発熱を呈した症例は認められなかった。また,腟分泌液から多様な微生物が検出されていた症例においても,同様の結果であった。
本研究では,経腟分娩後の感染症発症を予防する目的に,抗菌薬の投与が必須ではないことが示唆された。これは,粘膜免疫や常在菌叢による自然防御が十分機能していたためと考えられる。さらに,抗菌薬の使用により新生児における腸内細菌叢の定着抑制が知られているため,感染症リスクが低い妊産婦に対する予防的抗菌薬投与を見直す必要がある。本研究は,産後の感染症リスクを考慮した選択的な抗菌薬使用につなげる実践的知見を提供するものであり,今後の周産期医療の質向上に寄与することが期待される。
Key word
antimicrobial prophylaxis, antimicrobial resistance, perinatal infection, puerperal endometritis, puerperal fever
責任著者連絡先
*茨城県鹿嶋市厨五丁目1番地2
受付日
2025年11月12日
受理日
2026年5月7日
日化療会誌 74 (5): 531-537, 2026


