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書誌情報

Vol.52 No.11 November 2004

総説

Panton-Valentineロイコシジン陽性の市中感染型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の出現―感染症の現状と細菌学的特徴―

山本 達男, 種池 郁恵, 中川 沙織, 岩倉 信弘

新潟大学大学院医歯学総合研究科国際感染医学講座細菌学分野

要旨

 1997年から1999年にかけて米国で,市中感染型のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(community-acquired methicillin-resistant Staphylococcus aureus; CA-MRSA)による小児死亡例がたて続けに報告された。同時期,ヨーロッパ,オーストラリア等でも市中感染型MRSAが分離・報告され,さらに病原菌の特徴も明らかとなり,グローバル感染症として世界の注目を集めるようになった。市中感染型MRSAは,従来のMRSA(院内感染型MRSA; HA-MRSA)とは由来の異なるMRSAで,Panton-Valentineロイコシジン(PVL)と呼ばれる白血球破壊毒素を産生し,多くの場合IV型のメチシリン耐性領域(type IV SCCmec)をもつ。ただし,遺伝学的には複数の異なったクローンからなりたっていて,大陸特異的である。解析には必須遺伝子群塩基配列解析(MLST),発現調節遺伝子(agr)やプロテインA遺伝子(spa)の反復配列解析,毒素遺伝子パターン解析などが用いられる。現在,ヨーロッパに1種類,米国に数種類,そしてオセアニアに2種類,アジアに2種類の流行クローンが確認されている。薬剤感受性は流行クローンによって異なり,ペニシリン・セフェム以外の多くの抗菌薬に感受性を示す場合もある。このような市中感染型MRSAは多くの場合,皮膚,軟部組織の感染症と関連し,小児に多くみられる。一方で,症例数は少ないが,より深刻な壊死性肺炎,菌血症が増加傾向にある。わが国の市中感染型MRSAは,欧米の流行例とは様相が異なり,PVL陰性株が圧倒的に多く,遺伝学的に多様である。稀に分離されるPVL陽性の市中感染型MRSAは,欧米の主要型よりもオセアニア型に共通点が多い。PVL陽性の市中感染型MRSAの感染は健康な若者にも拡大している。世界分布調査,高い感染リスクグループ・地域の特定,そして詳細な感染発症メカニズムの解析が進行中である。

Key word

community-acquired infection, MRSA, Panton-Valentine leukocidin, staphylococcal cassette chromosome mec, multilocus sequence typing

別刷請求先

新潟県新潟市旭町通1番町757番地

受付日

平成16年9月28日

受理日

平成16年10月26日

日化療会誌 52 (11): 635-653, 2004