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書誌情報

Vol.53 No.6 June 2005

原著・臨床

悪性腫瘍患者におけるバンコマイシンの薬物動態パラメータの変動―ベイジアン法による解析―

寺町 ひとみ1), 松下 良2), 辻 彰2)

1)JA岐阜厚生連西美濃厚生病院薬剤科(前 JA岐阜厚生連中濃病院薬剤科)
2)金沢大学大学院自然科学研究科薬学系

要旨

 Vancomycin(VCM)をmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)感染症患者(腎機能は正常)に,通常投与量を点滴静注投与したところ,治療濃度域より実測血清中VCM濃度がかなり低い症例を経験した。本症例の原疾患に肺癌があることから,癌または悪性腫瘍疾患のある患者群で,VCMの薬物動態パラメータの変動を,臨床症例52例(血清クレアチニン値が0.6 mg/dL以下)について解析した。
 非担癌患者群は27例,担癌患者群は25例で比較検討した。解析は2-compartment modelを用い,Bayesian法で薬物動態パラメータを推定した。Bayesian法による投与設計後の非担癌患者群の実測トラフ値とピーク値の平均血清中VCM濃度は,10.53±3.01 μg/mL,24.18±0.11 μg/mL,担癌患者群10.96±4.07 μg/mL,25.51±1.92 μg/mLともに両群に有意差はなかった。しかし,VCM投与量は,非担癌患者群が26.40±11.22 mg/kg/day,担癌患者群が,34.86±13.09 mg/kg/dayと,担癌患者群のほうが多かった。推定した薬物動態パラメータは,VCMの全身クリアランス(CL)および,分布容積(Vdss)は,非担癌患者群0.056±0.018(L/hr/kg),1.05±0.34(L/kg),担癌患者群0.077±0.029(L/hr/kg),1.29±0.41(L/kg)とともに担癌患者群のほうが大きい値を示していた。予測性も良好な値を示した。
 Bayesian法による解析の結果,担癌患者群においてVCMのCL,Vdssが有意に非担癌患者群より大きい値を示した。同じ血清中濃度を担癌患者群が実現するためには,投与量の増量が示唆された。

Key word

vancomycin, malignancy, pharmacokinetic parameter, Bayesian method

別刷請求先

岐阜県養老郡養老町押越986

受付日

平成16年10月15日

受理日

平成17年4月14日

日化療会誌 53 (6): 357-363, 2005