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書誌情報

Vol.53 No.10 October 2005

総説

呼吸器感染症―その軌跡をふり返って―

小林 宏行

杏林大学医学部第一内科

要旨

 呼吸器感染症の時代的変遷について記した。古典的ともいえる解剖学的視野からの大葉性および小葉性肺炎という名称は1930年頃から次第に菌名を冠した肺炎名に変化し,その結果いわゆる濾過性病原体を意識した非定型肺炎という言葉も出現するにいたった。この背景には微生物学の発達があった。さらに1980年頃にはCommunity acquired pneumonia, Hospital acquired pneumoniaなど患者背景と起炎病原体の嗜好性を勘案した分類も登場した。この分類は,肺炎の病態を理解するうえで新鮮な響きを与え,かつempiric therapyとして抗菌薬選択のうえでも有益であった。しかしながら,担癌患者,難病保有例のほか高齢者などが,共生という合言葉のもとにcommunity societyのなかで占める比率が増加しつつあるという社会構成の階層的変化は,このような肺炎分類を再考しなければならない時代へきているものといえよう。このように肺炎呼称一つ取り上げてもたどった時代に応じ変遷してきたことも事実である。
 さらに“British Bronchitis”に始まるいわゆる慢性気道感染症は,Cystic fibrosisやびまん性汎細気管支炎での感染を加え,気道系の防御機構の破綻,細菌定着の遷延化と好中球自己抗体の産生,細菌バイオフィルム形成,そして2000年代にはquorum sensing systemの解明へと発展した。
 1935年のプロントジル発見,1940年代のペニシリンの実用化,さらに引き続く構造活性の解明に基づく抗菌薬の合成などは化学療法学を体系化した。耐性菌の出現など紆余曲折もあったが,感染症治療に果した功績は限りなく多大なものである。呼吸器感染症に対しても例外ではない。
 このような軌跡を俯瞰し,現に起こっている事象を深く理解することは,明日からの厚みのある見識や展望を生み出すうえで決して無用なことではあるまい。すなわち温故知新である。その意味から,呼吸器感染症について時系列的なreviewを試みた。

Key word

respiratory infections, history, bacteriology, clinical feature, therapeutic methods

別刷請求先

東京都三鷹市新川6-20-2

受付日

平成17年9月13日

受理日

平成17年9月27日

日化療会誌 53 (10): 603-618, 2005