Vol.55 No.5 September 2007
原著・基礎
Streptococcus pneumoniaeに対する経口β―ラクタム系薬の抗菌活性に及ぼす血清蛋白結合率の影響
1)天理よろづ相談所病院臨床病理部*
2)ファルコバイオシステムズ総合研究所検査三課
要旨
市中呼吸器感染症治療で汎用されている経口β―ラクタム系薬8薬剤について,Streptococcus pneumoniae 59株(PSSP 31株,PISP 22株,PRSP 6株)を使用し,Muller-Hinton Brothに生体内に類似した濃度である4 g/dLのヒトアルブミンを添加し,in vitroの抗菌力に対する影響を検討した。
全59株の,アルブミン添加時のMICとアルブミン非添加時のMICとの比(MIC比)の平均値で比較したところ,大きい順に,faropenem: FRPM(MIC比;6.9倍),次いでcefditoren pivoxil: CDTR-PI(4.2倍),cefteram pivoxil: CFTM-PI(2.3倍),amoxicillin(1.9倍),cefcapene pivoxil: CFPN-PI(1.5倍),cefpodoxime proxetil(1.4倍)cefotiam hexetil(0.9倍)の順であった。70%以上の蛋白結合率を示すFRPM, CDTR-PIおよびCFTM-PIの3薬剤はアルブミン添加により2倍以上のMIC比を示したが,他の薬剤は2倍以下であった。
次に,アルブミン添加により約2倍以上のMIC比を示したFRPM, CDTR-PIおよびCFTM-PIの3薬剤について,それぞれの薬剤の用法・用量におけるtime above MIC%が40%以上を満たすMICブレークポイント(BP1)と,血清蛋白結合率(以下,蛋白結合率)を補正するために補正係数(FRPM; 0.5, CDTR-PI; 0.2, CFTM-PI; 0.5)を乗じたブレークポイント(BP2)の2つのブレークポイントを算出し,BP1ではアルブミン添加MICの感性率を求め,BP2ではアルブミン非添加MICの感性率を求め,両ブレークポイントによるS. pneumoniaeの感性率を比較した。その結果,今回検討した6薬剤すべてにおいて,BP1およびBP2の両者より求めた感性率にはほとんど差がなく,蛋白結合率補正係数の妥当性が確認された。
以上から,蛋白結合率が70%以上を示すFRPM, CDTR-PIおよびCFTM-PIは,アルブミンの存在下でMICが著しく上昇する傾向が認められた。このMICの上昇は,生体内の感染部位でも再現される可能性があり,特に蛋白結合率が高い薬剤の感受性試験は,蛋白結合率を考慮したPK/PDブレークポイントで評価する必要性が示唆された。
Key word
protein-binding, pharmacokinetics, pharmacodynamics
別刷請求先
*奈良県天理市三島町200
受付日
平成19年3月13日
受理日
平成19年7月6日
日化療会誌 55 (5): 368-373, 2007