Vol.57 No.4 July 2009
原著・基礎
マウス肺感染モデルに対する抗MRSA薬のPK-PD解析―ヒト血漿中濃度および組織移行性を考慮した検討―
1)明治製菓株式会社医薬総合研究所*
2)同 学術部
3)同 生物産業研究所
4)福岡大学筑紫病院
要旨
臨床より分離されたMRSA株2株,MSC03154株(arbekacin(ABK),vancomycin(VCM)およびteicoplanin(TEIC)のMICは,それぞれ0.5,1および1 μg/mL)およびMSC15761株(3薬剤のMICはともに1 μg/mL)を用い,ABK 200 mg,100 mg,VCM 1 g,およびTEIC 400 mgを1日1回投与(以下,q.d.と略す)した後のヒト血漿中濃度推移をマウスMRSA肺感染モデルにシミュレーションした時の各薬物の有効性を評価した。
その結果,MSC03154株については,ABK 200 mg q.d.群はTEIC 400 mg q.d.およびVCM 1 g q.d.群に対し有意に肺内生菌数を減少させた。また,MSC15761株については,ABK 200 mg q.d., 100 mg q.d.,およびVCM 1 g q.d.群はTEIC 400 mg q.d.群に対し有意に肺内生菌数を減少させた。
これら薬物の治療効果の差異は,肺胞上皮粘液(Epithelial lining fluid, ELF)中濃度および殺菌曲線を用いたDynamic PK-PD解析によりMSC03154およびMSC15761株に対する有効性を予測した結果と良く相関した。
以上より,マウス肺感染モデルにおいてヒト血漿中薬物濃度をシミュレーションすることにより,ヒトと動物において薬物動態が異なるABK,VCMおよびTEICの有効性を,より臨床に近い条件で評価できることが明らかとなった。さらに,ELF中濃度および殺菌曲線に基づいたDynamic PK-PD解析は,抗MRSA薬のin vivo有効性を予測するための有用な手法であると考えられた。
Key word
MRSA, animal model, arbekacin, epithelial lining fluid, PK-PD
別刷請求先
*神奈川県横浜市港北区師岡町760
受付日
平成20年12月16日
受理日
平成21年5月20日
日化療会誌 57 (4): 295-303, 2009