Vol.58 No.4 July 2010
市販後調査
尿路感染症主要原因菌の各種抗菌薬に対する感受性
1)産業医科大学泌尿器科*
2)藤田保健衛生大学医学部泌尿器科
3)札幌医科大学医学部泌尿器科学講座
4)岐阜大学大学院医学系研究科医科学専攻病態制御学講座泌尿器科学分野
5)鹿児島大学医学部・歯学部附属病院血液浄化療法部
6)神戸大学大学院医学研究科外科系講座腎泌尿器科学分野
7)東京慈恵会医科大学泌尿器科学教室
(現 東京慈恵会医科大学附属青戸病院泌尿器科)
8)株式会社キューリン検査部
9)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科泌尿器病態学
(現 あらき腎・泌尿器科クリニック)
10)神戸大学医学部附属病院感染制御部
11)兵庫医科大学泌尿器科学教室
要旨
今回,われわれは,急性単純性膀胱炎,複雑性膀胱炎患者の患者背景調査ならびに,当該患者から得られた尿検体から菌を分離培養することにより,各疾患別の原因菌の種類・分布と各種抗菌薬に対する感受性を検討するとともに,キノロン耐性大腸菌が検出されるリスク因子を検討した。
その結果,急性単純性膀胱炎患者1,317例から1,699株が分離され,主な原因菌としてEscherichia coli(58.9%),Enterococcus faecalis(13.4%),Streptococcus agalactiae(4.6%),Klebsiella pneumoniae(3.6%),Staphylococcus epidermidis(3.4%)が検出された。一方,複雑性膀胱炎患者643例から880株が分離され,主な原因菌としてE. coli(34.7%),E. faecalis(19.9%),Pseudomonas aeruginosa(4.9%),K. pneumoniae(4.9%),S. agalactiae(4.5%)が検出された。
急性単純性膀胱炎由来のE. coliのフルオロキノロン系薬(FQs),セフェム系薬(CEPs)に対する感性率はいずれも90%以上であった。一方,複雑性膀胱炎由来のE. coliのFQsに対する感性率は67.5~86.9%でSTFXに対して最も高い感性率を示した。また,CEPsに対する感性率は83.9~88.5%であった。キノロン耐性大腸菌(LVFXのMICが4 μg/mL以上)が検出されるリスク因子を検討した結果,有意差が認められた項目は,1年以内の膀胱炎の罹患回数が2回以上の症例(p<0.0001),今回の膀胱炎に対してキノロン薬が無効であった症例(p<0.0001),複雑性膀胱炎の症例(p=0.0009),1カ月以内にキノロン薬の投与歴のある症例(p=0.0054),75歳以上の症例(p=0.0251)の5項目であった。本調査では疾患名が明確な患者から分離された菌株を対象(クリニカルレベル)に実施した結果,尿路感染症で最も発症頻度が高い膀胱炎の原因菌の種類や分布,抗菌薬の感受性は,疾患名・患者背景の違いにより大きく異なることが示された。抗菌薬の適正使用には,原因菌の抗菌薬に対する感受性を確認し,抗菌薬を使用することが重要であるが,エンピリック・セラピーを行う際には,患者背景等を十分考慮し,適切な抗菌薬を選択することが重要と考えられた。
Key word
urinary tract infection, antimicrobial susceptibility, surveillance
受付日
平成22年3月29日
受理日
平成22年5月27日
日化療会誌 58 (4): 466-482, 2010