ページの先頭です
ホーム > バックナンバー > 目次 > 書誌情報
言語を選択(Language)
日本語(Japanese)English

書誌情報

Vol.59 No.1 January 2011

総説

海外における薬剤耐性グラム陰性桿菌の動向

矢野 寿一1), 平潟 洋一1), 賀来 満夫2)

1)東北大学大学院医学系研究科臨床微生物解析治療学
2)同 内科病態学講座感染制御・検査診断学

要旨

 交通機関の発達に伴い,新しい薬剤耐性菌が出現すると世界規模で急速に拡大するようになった。このような時代において,NDM-1産生菌,KPC型カルバペネマーゼ産生Klebsiella pneumoniae,extended-spectrum β-lactamases(ESBLs)産生菌,多剤耐性Acinetobacterの動向が特に注目されている。NDM-1は,2009年に新規に発見されたメタロ-β-ラクタマーゼで,カルバペネム系薬を良好な基質として加水分解できるカルバペネマーゼである。NDM-1産生遺伝子は,多くが伝達性プラスミド上に位置し,接合伝達により急速に拡散していく危険性があること,Escherichia coliK. pneumoniaeなど健常人にも病原性を発揮する菌種から検出される点で注意が必要である。KPC型酵素はNDM-1同様カルバペネマーゼであるが,Amblerの分類でクラスA型に属する。KPC型酵素産生菌は,薬剤感受性試験でカルバペネマーゼ産生が認識されにくいため,カルバペネム系薬を使用し治療に失敗する例がみられる。ESBLsについては,CTX-M-15を産生するE. coliが近年,世界各国より優位に分離され注目されている。抗原型O25:H4およびMultilocus Sequence Typing(MLST)がST131である特定クローンが拡散しており,キノロン系薬やアミノ配糖体系薬などにも耐性を示す多剤耐性菌であり,市中感染症の原因菌としても注目されている。多剤耐性Acinetobacterも,その多くが特定の起源の菌株であり,European clone IIが世界的流行株として知られている。これらの世界的に流行中の各種薬剤耐性グラム陰性桿菌は,現在のところは本邦での分離頻度は非常に低いものである。しかし,その多くはすでに国内へ流入していると考えられ,今後の分離頻度の上昇や,それに伴う感染症例の増加や医療施設内感染が予想され,検査法の確立を含めた充分な監視体制の構築,および国内未承認薬の輸入・再使用を含めた治療法の開発が必要である。

Key word

Gram-negative rod, extended-spectrum β-lactamases, NDM-1, KPC, Acinetobacter spp.

別刷請求先

宮城県仙台市青葉区星陵町1-1

受付日

平成22年11月30日

受理日

平成22年12月8日

日化療会誌 59 (1): 8-16, 2011