ページの先頭です
ホーム > バックナンバー > 目次 > 書誌情報
言語を選択(Language)
日本語(Japanese)English

書誌情報

Vol.62 No.1 January 2014

総説

マクロライド耐性マイコプラズマの疫学と抗菌薬の有効性に関する検討

河合 泰宏

川崎医科大学小児科学講座

要旨

 Mycoplasma pneumoniaeは小児における市中肺炎の主要な起因菌である。本邦では2000年頃から小児科領域においてmacrolide系薬(MLs)耐性M. pneumoniae感染症の報告があって以降,MLs耐性M. pneumoniaeの分離率は上昇の一方をたどっている。MLs耐性M. pneumoniae感染症は,臨床症状が遷延して大規模病院を受診した症例のみならず,診療所からも報告されている。MLs耐性M. pneumoniaeによる成人肺炎例や諸外国からも相ついで報告されている。MLs耐性M. pneumoniae感染症では,MLs投与時は48時~72時間以上の発熱が続く。MLs投与後も2~3日発熱が続く場合には,MLs耐性M. pneumoniae感染症の可能性が高いと推察できる。ただし,MLs耐性M. pneumoniae感染症であっても,2~3日以内に解熱する場合もある。MLs耐性M. pneumoniae感染症の増加により,臨床現場でもquinolone系薬のtosufloxacin(TFLX)やtetracycline系のminocycline(MINO)を投与するケースが出てきた。しかし,MLsに対する感受性とは関係なくM. pneumoniaeに対するTFLX,MINOの最小発育阻止濃度(MIC)は,quinolone系薬のなかでも新しいrespiratory quinoloneであるmoxifloxacin,garenoxacin mesilate hydrateやMLs感受性M. pneumoniaeに対するMLsに比べて高く,一部の症例では治療終了時に気道に菌が残って感染が広がる可能性がある。また,quinolone系薬は耐性化の可能性があり,MINOは8歳未満の小児には原則禁忌である。われわれの行った多施設多地域(北海道,関東,東海,近畿,中国,四国,九州地方:65施設)の検討では,2012年のMLs前投薬の有無と耐性率は前投薬がある群の耐性率は95%で,前投薬のない群では耐性率が63%であり,前投薬のない群では従来の報告よりも低い耐性率であった。2012年にわが国の1次医療機関で行われた黒崎らの調査では,MLsの初回投与例の耐性化率は33.3%であった。MLsの前投与があり,症状の改善がなければ耐性率は90%以上であるが,MLsの前投与がない時の耐性率は50%以下である。本邦のプライマリケアも含む疫学データを反映した耐性率は,大規模病院を受診した入院患者の成績が多く含まれる従来の報告よりも低いと考えられた。したがって,MLs前投薬の有無を考慮した抗菌薬療法が重要である。「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011追補版」,「JAID/JSC感染症治療ガイド2011」ではM. pneumoniae感染症に対する初期治療は,MLs感性の場合やMLsの前投薬与がなければMLsを推奨している。MLsが無効のM. pneumoniae肺炎やMLs耐性M. pneumoniae感染症には,使用する必要があると判断される場合にTFLXあるいはtetracycline系薬が第二選択薬として考慮される。

Key word

macrolide-resistant Mycoplasma pneumoniae, child, community-acquired pneumonia, epidemiology

別刷請求先

岡山県倉敷市松島577

受付日

平成25年8月27日

受理日

平成25年12月12日

日化療会誌 62 (1): 110-117, 2014