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書誌情報

Vol.63 No.2 March 2015

総説

薬剤耐性菌を考慮した尿路感染症の抗菌化学療法―産婦人科医の立場から―

岩破 一博

京都府立医科大学大学院女性生涯医科学

要旨

 尿路感染症は,泌尿器科のみならず各診療科で日常的に遭遇する感染症で,その治療戦略は,各診療科での病態を十分に考慮して治療する必要がある。最近,尿路感染症起炎菌の薬剤耐性化,特にextended spectrum beta-lactamase(ESBL:基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ)産生菌の増加が問題になっている。
 産婦人科領域の尿路感染症は,婦人科での子宮頸癌術後の尿路感染症があるが,最近は神経温存など術式の改良,カテーテル早期抜去,自己導尿や広汎子宮全摘術で術後抗菌薬投与が2日などで,術後の尿路感染症そのものが以前に比べ明らかに減少している。
 無症候性細菌尿は,持続性に尿中に細菌が増殖しているが症状がない状態である。妊娠中の頻度は2~7%で,経産回数,人種,社会経済的な階層により差がある。妊娠初期に尿培養を行い細菌尿のスクリーニングを行い細菌尿があれば治療することが勧められる。
 当院での分娩例1,556例を対象に,急性腎盂腎炎の発生頻度,妊娠週数,既往歴,腎盂拡大の有無,尿培養検査,使用抗菌薬,耐性菌の有無,予後,ESBLについて検討した。急性腎盂腎炎は妊婦の1~2%に発症するが,当院では0.39%,当院では無症候性細菌尿や急性膀胱炎を発症した時点で治療を開始したので,急性腎盂腎炎の頻度は低かった。尿路感染症発症リスク因子を6例中3例認めた。リスクを有する場合には妊婦健診時に,頻回の尿検査による無症候性細菌尿の検出・治療が急性腎盂腎炎発症の抑制になる。起炎菌はEscherichia coliが多いが,当院でも5例中3例であった。E.coliへの感受性を考慮し,エンピリックセラピーとしてceftriaxoneを投与したが,重篤な合併症や腎盂腎炎に起因する流早産を起こすことなく治癒した。リスクを有する場合には頻回な尿沈渣等の検査が望まれる。ESBL産生菌のリスクファクターとして過去3カ月の抗菌薬使用,貧血,尿路カテーテル留置,長期入院があげられるが,産科症例の切迫早産例ではこれらのリスクファクターがあるので十分に注意し,早期にESBL産生菌であることを見出して,適切な抗菌薬を用いることが重要である。

Key word

urinary tract infection, asymptomatic bacteriuria, extended-spectrum β-lactamases(ESBL), drug-resistance

別刷請求先

京都府京都市上京区河原町通広小路上る梶井町465

受付日

平成26年9月12日

受理日

平成26年11月21日

日化療会誌 63 (2): 175-180, 2015