ページの先頭です
ホーム > バックナンバー > 目次 > 書誌情報
言語を選択(Language)
日本語(Japanese)English

書誌情報

Vol.64 No.4 July 2016

総説

肺炎診療:細菌叢解析でわかった新たな知見~呼吸器感染症における嫌気性菌の役割

迎 寛

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科呼吸器内科学分野(第二内科)

要旨

 肺炎は社会の高齢化を反映してその死亡者数は徐々に増加し,2011年に初めて本邦の死亡原因の第3位となった。肺炎による死亡者の95%以上が65歳以上の高齢者であり,入院を要する肺炎患者のうち,60歳代では約50%が誤嚥性肺炎と報告され,年代が上昇するごとにその割合は上昇すると報告されており,「高齢者肺炎」や「誤嚥性肺炎」の治療も重要となる。
 肺炎の「治療」の第一歩として,原因菌の把握は抗菌薬の選択の面からもきわめて重要である。しかしながら,培養を中心とした従来法では十分に満足できるものではない。そこで,われわれは,これまで産業医科大学微生物学教室との共同研究で,呼吸器感染症患者の呼吸器検体について,培養に依存しない遺伝子工学的手法による網羅的な細菌叢の解析を行ってきた。細菌叢解析法とは細菌のみが保有する16S ribosomal RNA遺伝子をPCRで網羅的に増幅し,PCR産物のクローンライブラリーを作成した後に無作為に選択した96クローンの塩基配列を評価することで,その検体中の優占菌種を把握する手法である。
 市中肺炎や医療ケア関連肺炎の気管支洗浄液を用いて細菌叢を解析したところ,既報の原因菌に加えて,嫌気性菌やレンサ球菌が多数認められたことを報告した。特に従来法において原因菌が不明であった症例では,嫌気性菌や口腔レンサ球菌が最優占菌種として検出された。さらに誤嚥リスクの有無による細菌叢の違いを後方視的に比較検討したところ,誤嚥リスク群では口腔レンサ球菌がより多く検出され,誤嚥リスクに最も関与が大きい可能性が見出された。一方で,以前から関連が指摘されていた嫌気性菌については,誤嚥のリスクの有無では検出率の差はみられなかった。
 今回は,細菌叢解析を用いて,「高齢者肺炎」や「誤嚥性肺炎」を中心に,多方面から検討したデータを紹介し,呼吸器領域における嫌気性菌の位置づけについて概説する。

Key word

pneumonia, 16S ribosomal RNA, clone library, anaerobes, Streptococcus

受付日

平成28年1月12日

受理日

平成28年2月3日

日化療会誌 64 (4): 647-651, 2016