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書誌情報

Vol.65 No.4 July 2017

総説

生物学的製剤と感染症・化学療法

渡辺 彰

東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門

要旨

 近年,リウマチなどの免疫性炎症性疾患に対する生物学的製剤の投与が急増し,目覚ましい効果を上げる一方,結核や肺炎,ニューモシスチス肺炎などの各種感染症の併発が増えている。生物学的製剤とはBiologicsの訳であり,医薬品で最も多い化学合成品(化合物)への対語であるが,ヒトなどの生物に由来する材料を用いて生物工学の手法によりつくられる。生物学的製剤のなかでも,ヒトの結核免疫の根幹をなすTNF-αを阻害する製剤では,結核感染既往者の多いわが国での結核の増加が懸念されていた。しかし,TNF-α阻害薬投与の前に,潜在性結核のスクリーニングで既感染所見が確認される例への抗結核薬の予防投与を行えば,結核発症を抑え得ることが市販後全例調査で実証された。しかし,予防投与の効果は100%ではないため結核併発例は未だに散見され,急速に悪化して死亡にいたる例もみられる。重症化や死亡は免疫再構築の機序による可能性が高いので,生物学的製剤の再投与や継続投与を考える必要がある。一方,わが国で急増している非結核性抗酸菌症に関しては,その病態が不均一で治療薬剤にも乏しいため,生物学的製剤の投与は禁忌と考えられてきたが,臨床例の綿密な解析から,一定の条件下では同剤の投与が可能であるとの認識が確立されつつある。細菌性肺炎やニューモシスチス肺炎の併発もみられるが,そのリスク因子が判明しており,それぞれインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの接種,およびST合剤などの予防投与が効果的である。また,それらを併発した場合には,インフルエンザを含めて治療の早期開始が肝要である。

Key word

biological agents, TNF-α(tumor necrosis factor-α), tuberculosis, prophylaxis

別刷請求先

宮城県仙台市青葉区星陵町4番1号

受付日

平成29年1月10日

受理日

平成29年3月15日

日化療会誌 65 (4): 568-576, 2017