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書誌情報

Vol.65 No.5 September 2017

総説

化学療法学会 あすへの提言―第3部 耐性化した細菌感染症に直面する課題―

紺野 昌俊

帝京大学名誉教授

要旨

 本邦において,現在市中で発症する気道感染症の三大原因菌(Streptococcus pneumoniaeHaemophilus influenzaeおよびMycoplasama pneumoniae)の80%はβ-lactam系薬やmacrolide系薬にかかわる耐性遺伝子あるいは遺伝子変異をもつ菌に変化している。これら耐性菌による感染症は,乳幼児における抗体産生能の推移と大きく関連している。しかし,これら耐性菌に確実に有効性を示す新たな経口用抗菌薬の開発には先が見えてこない。のみならず,そのことに対する関係者の危機感も希薄である。
 わが国におけるpenicillin-resistant S. pneumoniae(PRSP)およびβ-lactamase nonproducing ampicillin-resistant H. influenzae(BLNAR)の増加傾向は,経口cephem系薬が繁用されてきたことに起因する。経口cephem系薬は,細胞分裂をmediateするpenicillin-binding proteins(PBP)の機能を選択的に阻害して,その標的となる細胞壁にダメージを与えて,さらに溶菌するまでの時間をも与え,標的とするPBPをcodeするpbp2xあるいはftsl遺伝子に変異を与える。加えてPRSPもまたその多くがmacrolide系薬にかかわる薬剤耐性遺伝子をも保持している。その理由は,S. pneumoniaeにおいては形質転換やtransductionが生じやすい菌であることに起因する。
 PRSPおよびBLNARによる髄膜炎は結合型ワクチンの定期接種によって激減した。しかし,S. pneumoniaeにおいてはワクチンに含まれない莢膜型のPRSPが出現している。Nontypeable H. influenzae(NTHi)のBLNARによる急性中耳炎は依然続いている。また,再発性中耳炎の発症頻度にも変わりはない。
 Macrolide耐性マイコプラズマ(MRMP)による肺炎大流行の原因はmacrolide系薬を投与しても排菌が持続され,市中に拡散したことに尽きる。Tosufloxacinを推奨するむきもあるが,解熱しても排菌は持続している。残るはtetracycline系薬の投与をいかに短縮して排菌を抑制し,歯芽形成に及ぶ障害を最小限に抑える治療法を考えることにある。
 いずれにしても,市中型急性気道感染症にかかわるガイドラインは,従来のempiric therapyに類する抗菌薬の適正投与を厳格に糺す必要がある。また,感染症関連の学会は共同して,新たな抗感染症薬開発の手掛かりとなる研究を,医学を超えて広く薬学・化学・理学・農学・獣医学など各領域の研究室に積極的に呼びかける手立てを講じなければならない。それが,学会が担う社会的責務である。

Key word

methicillin-resistant Staphylococcus aureus, penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae, β-lactamase negative resistant Haemophilus influenzae, macrolide-resistant Mycoplasma pneumoniae, vaccination

別刷請求先

東京都文京区千石3-37-10

受付日

平成28年12月16日

受理日

平成29年1月26日

日化療会誌 65 (5): 688-735, 2017