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書誌情報

Vol.65 No.5 September 2017

総説

次世代シーケンス(NGS)による劇症型レンサ球菌の病原性解析

竹本 訓彦1), 小倉 康平1), 渡邊 真弥2), 秋山 徹1)

1)国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(研究所)病原微生物学研究室
2)自治医科大学感染・免疫学講座細菌学部門

要旨

 次世代シーケンサの登場により病原微生物の全ゲノム解析はきわめて身近なものとなった。本稿では次世代シーケンサを活用したレンサ球菌解析の事例を紹介させていただく。(1)Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis(SDSE)は近年,劇症型症例(STSS)からの分離が増加している。われわれはこれらの菌種の全ゲノム配列を世界に先駆けて明らかにし,SDSEが他のレンサ球菌と比較して,A群レンサ球菌(GAS)と最も近縁であるが,いくつかのGASの重要病原因子を欠落していることを明らかにした。(2)GASはヒトやマウスにおいてin vivocovRSなどの制御系因子の遺伝子を破壊することで高病原性化することが知られているが,それ以外の遺伝子にも変異が起こるのかについてはほとんど知見がない。そこで,マウス皮下投与モデルで変異を誘発させた菌株を,NGSにより多数解析し,変異の入った位置の特定を試みた。(3)種々の制御因子を破壊したGAS株をマウスに投与後,RNA-seqによりin vivoでのトランスクリプトームの変化を解析している。発現データを元に,各遺伝子をクラスタリングし,ネットワーク解析を実施している。(4)GASでは,病原性因子の制御にかかわる転写因子が複数同定されている。しかし,各転写因子が直接的に制御するregulonの網羅的解析はほとんど行われておらず,転写制御因子間の制御ネットワークや各転写因子のSTSS発症過程における役割についての理解はほとんど進んでいない。そこでわれわれは既知の病原性因子の発現を制御する転写因子CovRのChIP-seq解析とcovR遺伝子破壊株におけるRNA-seq解析を行い,CovRが制御する遺伝子群を探索している。(5)当センターはエボラ,デング,MERS,ジカ熱などの輸入感染症に対応する指定医療機関である。今回,アラブ首長国連邦とモロッコに観光のために渡航し,ラクダに乗った後,帰国後,MERS-CoV感染が疑われる症状を発症し,当センターで治療された症例が,実はGASによる感染であることが判明した症例を経験した。同菌の全ゲノム配列を解析した事例を紹介する。

Key word

Streptococcus pyogenes(Group A streptococci), Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis

別刷請求先

東京都新宿区戸山1-21-1

受付日

平成29年1月16日

受理日

平成29年4月19日

日化療会誌 65 (5): 745-750, 2017