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書誌情報

Vol.66 No.4 July 2018

総説

プロバイオティクス,臨床応用への新しい方向性

高橋 志達

ミヤリサン製薬株式会社東京研究部

要旨

 ヒトの生体各部位には多種多様な微生物が定着し,常在細菌叢を形成している。この常在細菌叢は宿主との共生関係を維持しながら生体反応に大きな影響を与えており,近年では,炎症性腸疾患,Clostridium difficile腸炎,大腸癌等の消化器系疾患や,糖尿病や動脈硬化,喘息をはじめとしたアレルギー疾患,さらには自閉症等の精神疾患への関与が明らかとなりつつある。
 プロバイオティクスは,宿主の健康に寄与する生きた微生物を用いた生菌製品であり,これらには発酵乳を含む飲料および食品に加え,実臨床の場において応用可能な医療用医薬品としての生菌製剤などが挙げられる。
 プロバイオティクスにはLactobacillus spp.,Bifidobacterium spp.,Enterococcus spp.,Bacillus spp.およびClostridium butyricum等の幅広い細菌やSaccharomyces boulardii等の酵母が用いられるが,それらの安全性や有効性は菌属や菌種よりも菌株の特性に依存し,臨床的に期待する効果も菌株特異的な研究の成果として見極める必要性が指摘されている。プロバイオティクスの基礎研究分野では,オミックス解析の発展に伴い,遺伝子レベルでの機能解析(Genome)やプロバイオティクスにより産生または誘導される各種代謝産物(短鎖脂肪酸やビタミン等)のメタボローム解析(Metabolome),さらには遺伝子の発現系解析(Transcriptome)を介した作用メカニズムの検証が試みられている。
 臨床現場においては,プロバイオティクスは主に感染性腸炎や過敏性腸症候群等の各種慢性および急性の消化器系疾患や抗菌薬誘導下痢症(Antibiotic Associated Diarrhea;AAD)およびC. difficile感染の予防または治療に広く用いられている。
 本稿では,最近の常在細菌叢と疾病の関連性に関する研究を総括しながら,分子生物学的研究手技を用いたプロバイオティクスの有効性の検討,ならびに臨床応用の可能性,さらには将来性について概説したい。

Key word

probiotics, microbiota, microbiome, dysbiosis

別刷請求先

東京都北区上中里1-10-3

受付日

2017年12月18日

受理日

2018年2月13日

日化療会誌 66 (4): 489-503, 2018