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書誌情報

Vol.66 No.5 September 2018

原著・臨床

薬剤師による治療支援がStaphylococcus aureus菌血症治療に及ぼす効果

田中 大1), 大隅 智之1), 稲葉 洋介2), 柴原 美也子3), 水堂 祐広4), 吉本 昇5), 喜古 康博1)

1)藤沢市民病院薬局
2)同 臨床検査室
3)同 看護部
4)同 呼吸器内科
5)同 呼吸器外科

要旨

 Staphylococcus aureusの菌血症(S. aureus bacteremia:SAB)に対する生存率や再発率の改善を目的として,抗菌化学療法認定薬剤師および病棟薬剤師による治療期間や血液培養再検査の提案などSABの治療マネジメントを改善するための支援を開始した。そこで,本研究は薬剤師による継続的な治療支援がSABの治療に及ぼす影響を検討した。
 対象は,2012年7月~2013年6月(支援開始前)および治療支援の試行期間として1年が経過した後の2014年7月~2016年6月(支援開始後)に,藤沢市民病院で1本以上の血液培養からS. aureusが検出された症例とした。主要評価項目は,初回の血液培養実施後90日における累積生存率および治療終了後180日における累積再発率とした。なお,再発は同一菌種による菌血症または深部感染の発症と定義した。また,副次的評価項目として,治療期間,培養陰性化の確認を目的とした血液培養の再検査実施の有無,経胸壁および経食道心エコー(ただし,診療録に目的または結果として心内膜炎の除外について記載がある場合のみ)の実施,de-escalationの実施および標的治療において抗MRSA薬が追加された割合について比較した。
 対象は支援開始前46例,支援開始後71例であった。血液培養の実施から90日における累積生存率は,支援開始前86.7%,支援開始後85.2%となり統計学的に有意な差はなかった。しかし,支援開始前の群では治療終了後180日以内に菌血症2例および腸腰筋膿瘍1例がみられた。一方で,支援開始後では再発と考えられる症例はなく,累積再発率において統計学的に有意な差がみられた(P=0.032)。
 再発率に影響を与える可能性がある要因のうち治療期間について検討した結果,治療期間が14日未満の症例の割合は,支援開始前後で43.5%から25.4%と統計学的に有意な差がみられた(P=0.041)。そのため,目的変数を治療期間が14日未満か否かとし,説明変数を支援開始前後,検出菌がMRSAか否か,治療期間が長期になる可能性が高い感染源(感染性心内膜炎,骨・関節の感染症または膿瘍)の有無としてロジスティック回帰分析を行った。その結果,支援開始後は調整オッズ比が0.446(95%信頼区間:0.197~1.011)と統計学的には有意でなかったものの他の要因よりも低値を示し,薬剤師による治療支援は治療期間が不適切に短くなるリスクを軽減させる可能性が考えられた。また,治療開始後2~4日における血液培養の再検査は,支援開始前2.2%から支援開始後15.5%(P=0.020)と統計学的に有意な差がみられた。
 以上より,薬剤師による継続的な治療支援はSABに対する治療マネジメントの改善を通じて再発率の減少に寄与する可能性があると考えられた。

Key word

Staphylococcus aureus bacteremia, appropriate use

別刷請求先

神奈川県藤沢市藤沢2-6-1

受付日

2017年10月2日

受理日

2018年4月4日

日化療会誌 66 (5): 578-586, 2018