Vol.66 No.5 September 2018
原著・臨床
薬剤師主導の抗菌薬適正使用支援活動を通じたStaphylococcus aureus菌血症に対する診療支援の有用性に関する検討
1)医療法人社団緑成会横浜総合病院薬剤科*
2)同 内科
3)聖マリアンナ医科大学感染症学講座
要旨
Staphylococcus aureusによる菌血症(SAB)は死亡率の高い感染症であり,感染性心内膜炎,膿瘍,骨髄炎などの合併症を呈することもあるため,早期の適正な治療薬の選択と適正な治療期間を遵守することが重要である。横浜総合病院(以下,当院)は,300床の中規模病院であり,常勤の感染症専門医は不在であるが,抗菌化学療法認定薬剤師主導で,血液培養の中間報告,最終報告を収集し,主治医,病棟薬剤師とともに適正な感染症治療を支援するAntimicrobial stewardship program(ASP)活動を行っている。今回,当院で発症したSABを対象として,支援前(2008~2011年度),支援後(2012~2015年度)に分類し,30日生存率などをアウトカム指標,適正抗菌薬の累積使用率,14日以上の抗菌薬使用率,血液培養の陰性化確認率,経胸壁心エコー実施率などをプロセス指標として検証した。その結果,両群における30日生存率は,支援前:80.0%(20/25),支援後:81.3%(39/48)(p=0.80)であった。また,両群における適正抗菌薬の累積使用率は,SAB全体,MSSAでは有意な差を認めなかったが(p=0.07,0.44),MRSAでは有意な差を認めた(p=0.02)。両群における14日以上の適正抗菌薬使用率は,48.0%(12/25),79.2%(38/48)(p<0.01),血液培養再検査率は,36.0%(9/25),56.3%(27/48)(p=0.13),経胸壁心エコー実施率は36.0%(9/25),47.9%(23/48)(p=0.46)であった。多変量解析の結果,本研究における死亡率を増加させる因子は,MRSA菌血症がオッズ比4.34(95%信頼区間:1.10~22.90),感染巣不明がオッズ比5.87(95%信頼区間:1.43~29.98),感染性心内膜炎がオッズ比4.00(95%信頼区間:1.06~244.47)であった。本研究では,生存率の改善にはいたらなかったが,薬剤師主導のASP活動を通じたSABの感染症診療の支援は,適正抗菌薬の早期使用率,SABにおける適切な治療期間の達成と必要な検査の施行率などのプロセス指標の向上に繋がる可能性が示唆された。
Key word
antimicrobial stewardship, Staphylococcus aureus bacteremia, pharmacists
別刷請求先
*神奈川県横浜市青葉区鉄町2201-5
受付日
2017年9月25日
受理日
2018年5月2日
日化療会誌 66 (5): 587-599, 2018