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書誌情報

Vol.67 No.2 March 2019

総説

齲蝕原性細菌によって引き起こされる感染性心内膜炎

野村 良太, 仲野 和彦

大阪大学大学院歯学研究科口腔分子感染制御学講座(小児歯科学教室)

要旨

 感染性心内膜炎は,弁膜や心内膜に疣腫と称される細菌を含む塊を形成し,血管塞栓や心不全症状などの多彩な臨床症状を呈する全身性敗血症性疾患である。侵襲的な歯科治療や日々のブラッシングなどによる口腔内の出血は,感染性心内膜炎発症の誘引となることが知られている。口腔レンサ球菌のうち主要な齲蝕病原性細菌であるStreptococcus mutansは,感染性心内膜炎の主要な原因菌の一つであり,血清学的にcefおよびkの4型に分類される。口腔から分離されるS. mutansのうち,約70~80%はc型,約20%はe型であるのに対し,f型やk型のS. mutansはわずか5%以下しか存在しないことが知られている。一方で,菌血症や感染性心内膜炎を発症した患者の血液や心臓弁からS. mutansの検出を試みたところ,口腔とはまったく異なる血清型分布が認められた。そこで,菌体表層構造を詳細に分析したところ,f型やk型のS. mutansではコラーゲン結合タンパクであるCnmおよびCbmを発現している株が多く存在することが明らかになった。これらのコラーゲン結合タンパク陽性のS. mutansは,血管内皮細胞への高い付着侵入能やフィブリノーゲンを介した血小板凝集を誘導するとともに,ラット感染性心内膜炎モデルにおいて心臓弁に菌塊を伴う疣腫を形成した。さらに,細断したウシの心臓弁表面にS. mutansの菌塊を形成させることにより,簡易的に多くの菌の病原性をスクリーニングすることのできるex-vivo評価法の構築に成功した。これらの研究成果から,ある種のS. mutansが感染性心内膜炎のリスクファクターとなることが明らかとなり,そのような菌による口腔から血液中への侵入を防ぐために,定期的な歯科検診や歯科治療への積極的な介入が歯科領域において重要であることが示唆された。

Key word

Streptococcus mutans, serotype, collagen-binding protein, infective endocarditis

別刷請求先

大阪府吹田市山田丘1-8

受付日

2018年8月23日

受理日

2018年10月29日

日化療会誌 67 (2): 176-181, 2019