Vol.67 No.5 September 2019
総説
HIV感染症と血球異常
広島大学病院輸血部・エイズ医療対策室*
要旨
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症患者は,貧血,血小板減少などの血球減少を伴うことがある。また,そのことが契機になり無症状の感染者が診断に至るケースも多い。血球異常の発症機序は,直接あるいは間接的にHIV感染が関連し,主に造血障害,破壊亢進,異形成に大別される。HIVは細胞表面抗原のCD4やCCR5を有する段階の造血幹細胞(HPSC)に感染することができるので,HIVに感染したHPSCは分化・増殖ができなくなり,結果造血障害,血球減少につながる。さらにHIV感染に宿主が反応して炎症性サイトカインを産生することにより,HPSCの分化障害または破壊亢進をもたらすこともあり得る。貧血の原因は多岐にわたるが,ジドブジンなどの核酸系逆転写酵素阻害薬の副作用による造血障害が,最も多い。血小板減少の機序は破壊亢進が主であり,HIV由来蛋白や感染により炎症性サイトカイン又は非特異的なIgGが産生され,それが免疫性血小板減少症(ITP)と同様に,肝・脾での破壊亢進に繋がると考えられている。多くは抗HIV薬投与により改善するが,難治例の場合にはITPと同様の治療を行う。HIV関連好中球減少症もみられる場合があるが,同じ白血球系統では骨髄異形成症候群(MDS)や白血病の合併も多いとする論文もある。HIV感染者のMDSは非感染者に比べて,若年発症が多い,急性骨髄性白血病への移行が多い,予後が悪い,などの特徴があり,今後患者の高齢化時代も到来するため,MDSの合併の増加が懸念される。
Key word
HIV, anemia, nucleoside reverse transcriptase inhibitor, thrombocytopenia, CD4
別刷請求先
*広島県広島市南区霞1-2-3
受付日
2018年10月9日
受理日
2019年3月22日
日化療会誌 67 (5): 577-582, 2019