Vol.68 No.1 January 2020
総説
HIV関連神経認知障害の病態と治療の現況
琉球大学大学院医学研究科感染症・呼吸器・消化器内科学講座*
要旨
HIV関連神経認知障害(HIV-associated neurocognitive disorder;HAND)の有病率は50%前後と高く,無症候性の認知障害(Asymptomatic neurocognitive impairment;ANI)から軽度の認知障害(Mild neurocognitive disorder;MND),最重症であるHIV認知症(HIV-associated dementia;HAD)に分類される。抗レトロウイルス療法(Antiretroviral therapy;ART)が導入されて最重症型であるHADは劇的に減少したが,ANI,MNDの罹患率が増加し続けていることが新たな問題となっており,その原因については明らかにされていない。発症すれば社会活動からの逸脱だけでなく,HIVの治療に最も必要なアドヒアランスの維持が困難となるために薬剤耐性HIVを招来し,最終的には予後に重大な影響を与える。
HANDは一般的な認知症スクリーニング検査では認知機能低下を検出できない。そのため,複数の神経心理検査を組み合わせたバッテリーによる評価が必要である。
HIVと中枢神経系器官との親和性は高く,マクロファージ(Macrophage;Mφ)やグリア細胞に感染するが神経細胞には感染しない。中枢神経系(Central nervous system;CNS)における慢性の炎症と神経毒性物質は神経細胞体のみならず樹状突起にも損傷をもたらして,神経ネットワークに深刻なダメージを与える。HANDを臨床・神経心理学的に表現すれば前頭葉―皮質下性認知障害である。行動開始の意欲,目標の設定,計画の立案,状況に合わせて実行する能力の障害(実行機能障害)が前景に立つ。HAND治療のレジメン選択はCNSへの移行性が考慮され,CNS Penetration-Effectiveness(CPE)スコアが参考となる。
アドヒアランス低下のリスクがあるHANDをどのようにマネージメントするかはエイズ流行の終息に重要であり,また新たな課題でもある。
Key word
HIV, HIV-associated neurocognitive disorder(HAND), AIDS
別刷請求先
*沖縄県中頭郡西原町上原207番地
受付日
2019年1月21日
受理日
2019年7月30日
日化療会誌 68 (1): 108-115, 2020