Vol.68 No.1 January 2020
総説
抗がん剤治療患者における感染症対策について
国立がん研究センター東病院*
要旨
がん患者は免疫不全宿主として知られ,特別な感染対策が必要と考えられている。より適切な感染対策を行うためには,それぞれのがん患者にどのような感染症のリスクがあるのかを理解する必要がある。好中球減少,細胞性免疫不全,液性免疫不全,皮膚・粘膜のバリア破たんの4つのカテゴリーで分類すると,免疫不全で問題となる病原体を具体的に想起しやすくなる。ただし,新規の抗がん剤投与に伴う未知の免疫不全,副作用に足元をすくわれないよう,最新の情報に注意する必要がある。
多くのガイドラインで特定の免疫不全患者に対する抗微生物薬の予防投与が推奨されている。深い好中球減少が予測される場合にはフルオロキノロンの予防投与が推奨されているが,近年の薬剤耐性化の問題に伴ってその効果が疑問視されている。新しいエビデンスの他,地域の耐性菌動向なども参考に,適切な予防投与の実施を心がけるべきである。
外因性の感染防止としての防護環境や食事制限などの有効性を支持するエビデンスが十分ではない感染対策については,現状のエビデンスを把握したうえで,現場の状況に応じて柔軟に感染対策を検討する必要がある。
Key word
anticancer chemotherapy, immunodeficiency, infection control, antimicrobial prophylaxis
別刷請求先
*千葉県柏市柏の葉6-5-1
受付日
2018年10月15日
受理日
2019年11月5日
日化療会誌 68 (1): 132-142, 2020