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書誌情報

Vol.68 No.2 March 2020

総説

性感染症の治療におけるUp to date―わが国における尿道炎に対するceftriaxone 1 g単回投与,azithromycin 2 g単回投与の意義と欧米ガイドラインとの比較―

安田 満1, 2), 重村 克巳3, 4, 5), 伊藤 晋6)

1)岐阜大学医学部附属病院生体支援センター
2)岐阜大学研究推進・社会連携機構微生物遺伝資源保存センター
3)神戸大学医学部泌尿器科
4)神戸大学大学院保健学研究科
5)神戸大学医学部附属病院感染制御部
6)あいクリニック

要旨

 性感染症領域においても薬剤耐性は深刻な問題である。特に尿道炎原因菌においては深刻である。そこで尿道炎原因菌に対する抗菌薬としてceftriaxone(CTRX)とazithromycin(AZM)の位置づけについて検討し,さらにわが国の治療ガイドラインと欧米のガイドラインを比較検討した。
 わが国においてCTRX低感受性菌はほとんど分離されず,また臨床効果を予測するTherapeutic TimeにおいてもCTRX 1 g単回投与は淋菌性尿道炎の治療に有効と考えられる。実臨床においても同投与法は有効であることが報告されている。しかしながらCTRX耐性菌の報告はないがMIC 0.5 mg/Lの株は散見されている。
 AZMに関してはAZM耐性株が増加しつつあり,実際に有効率の低下が進行している。また世界的にもAZM高度耐性株も報告されており,AZM徐放製剤の単回投与は淋菌性尿道炎の初期治療薬剤としては推奨されないと考えられる。非淋菌性尿道炎のうちクラミジアに関してはAZM耐性菌の出現はなく問題はないが,Mycoplasma genitaliumに対しては有効率の低下が指摘されている。わが国においてマクロライド耐性にかかわる23S rRNA遺伝子の変異を有する株が70%であったとの報告もあり,第一選択薬の位置づけは疑問が残る。
 わが国と欧米のガイドラインを比較すると非淋菌性尿道炎に関してはほぼ差異はない。しかし淋菌性尿道炎では,わが国ではCTRX高用量の単回投与であるのに対し欧米ではCTRX低用量+AZMのDual Therapyとなっている。低用量のCTRXは薬物動態的に効果が低い可能性があるとともに耐性菌を選択する可能性がある。またCTRX+AZMのDual TherapyはSynergy効果がなく,単独で有効であることが必須であるが,すでにAZM耐性菌が増加しつつある現在では疑問である。むしろわが国のように高用量のCTRX単独であれば併用する必要はないと考えられる。こういった意味からも淋菌性尿道炎においてはわが国のCTRXの用量は世界で最も高用量であるといった意味で光であり,むしろ欧米のガイドラインのほうが低用量であり影といえる。

Key word

urethritis, ceftriaxone, azithromycin, antimicrobial resistance, guideline

別刷請求先

岐阜県岐阜市柳戸1-1

受付日

2019年7月23日

受理日

2019年8月30日

日化療会誌 68 (2): 186-197, 2020