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書誌情報

Vol.68 No.2 March 2020

総説

日本の高齢者施設におけるレセプト情報を利用した抗菌薬使用量調査の問題点

日馬 由貴1, 2), 鈴木 久美子1), 具 芳明1), 福田 治久3), 石金 正裕1, 4), 早川 佳代子4), 大曲 貴夫1, 2, 4)

1)国立国際医療研究センター国際感染症センターAMR臨床リファレンスセンター
2)東北大学大学院新興再興感染症学講座
3)九州大学大学院大学院医学研究院医療経営・管理学講座医療経営学分野
4)国立国際医療研究センター国際感染症センター

要旨

 抗菌薬使用量(AMU)は薬剤耐性(AMR)の発生と密接に関連する。高齢者施設における抗菌薬の過剰な使用はAMRを増加させ,高齢者施設と医療施設の行き来に伴って病院内や地域に薬剤耐性菌が拡散していく可能性があるため,高齢者施設におけるAMUの把握は重要である。厚生労働省は患者支払い情報(レセプト)のデータベース(レセプト情報・特定健診等情報のデータベース:NDB)を構築しており,そのデータを第三者提供している。本データベースを用いたAMU調査は全国や都道府県単位では可能であることがわかっているが,今回,高齢者施設においても利用が可能かどうか検討した。NDBからAMU情報を抽出するためには,医療レセプトに含まれる情報で該当施設が抽出できることと,抗菌薬が医療保険で給付されることの両方を満たすことが必要であるが,これを満たす施設は療養病床と介護老人福祉施設のみであった。しかし,療養病床の医療保険給付は入院基本料による包括で行われるためAMU情報の入手は不可能であった。また,介護老人福祉施設のレセプト情報に含まれる情報では施設内で処方された抗菌薬のみしか抽出ができず,医療機関への受診時に処方された抗菌薬を含めた全数把握は不可能であった。現状では,NDBを利用した高齢者施設におけるAMU調査システムの構築は困難であるが,療養病床の詳細な診療情報の提出義務化や,医療,介護の患者支払い情報の連結が将来的に予定されており,NDBを用いた高齢者施設のAMU調査で把握することのできる範囲は今後,広がることが予想される。NDBを用いてAMUを把握するシステムは,ポリファーマシーや向精神薬の過剰使用への対策などにも有用である可能性がある。この先,日本が他の先進国に先んじて超高齢化社会を迎えるにあたり,レセプト情報を用いた薬剤情報の把握については,方法論を引き続き模索していくべきである。

Key word

antimicrobial use, elderly facility, claim data, national database

別刷請求先

東京都新宿区戸山1-21-1

受付日

2019年8月5日

受理日

2019年10月21日

日化療会誌 68 (2): 210-215, 2020