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書誌情報

Vol.68 No.3 May 2020

総説

生物学的製剤使用下に注意すべき呼吸器感染症

徳田 均

地域医療機能推進機構東京山手メディカルセンター呼吸器内科

要旨

 過去10数年間に関節リウマチ(RA)などの免疫性炎症性疾患の治療にさまざまな生物学的製剤が導入され,それぞれが画期的治療効果を挙げており,2019年9月時点で製剤数は20を超えた。その作用機序も多彩であり,TNF阻害薬,IL-6阻害薬,T細胞共刺激分子阻害薬などが当初RA,炎症性腸疾患(IBD)に投与されていたが,近年IL-17阻害薬,IL-23阻害薬が主に乾癬の分野に導入され,その他多くの難治性疾患の治療にそれぞれ特異的に作用する製剤が開発・導入され,有効性を発揮しつつある。
 しかしこれら生物学的製剤が標的とするサイトカイン,分子の多くは,宿主の自然免疫,獲得免疫において重要な役割を果たしていることから,これらの阻害が宿主の感染防御免疫の低下をもたらし,感染症が多発するのではないかと懸念されていた。実際これまでの各薬剤での臨床試験や市販後全例調査などを通じて,生物学的製剤の有害事象として,頻度からも重篤度からも感染症,その中でも特に呼吸器感染症が最も頻度が高くかつ重要であることが明らかにされている。呼吸器感染症はしばしば重篤化し,入院治療を要し,時に致死的であり,これら難治性疾患の治療遂行上,悪性腫瘍と並んで最も重大な合併症である。RAにおいてこの問題は最も深刻で,細菌感染症,結核,非結核性抗酸菌症,ニューモシスチス肺炎などについて,多くの検討がなされ,その対策も確立しつつある。その結果例えば結核症については,近年著しく発生が減少しているが,一方細菌性肺炎による死亡は深刻化するなど,対応はさらに工夫される必要がある。RA以外の疾患,IBD,乾癬,ぶどう膜炎などについては,その有害事象としての呼吸器感染症については議論の蓄積は十分ではない。報告例が未だ少ないため全貌がみえてきていない状況である。しかし米国では特にIBDについて重大な懸念が表明されており,これらの疾患が急増しつつあるわが国においても近い将来同様の事態になることは十分予想され,実態の把握,そして対応法の検討が今求められている。

Key word

biologic agent, respiratory infection, rheumatoid arthritis, inflammatory bowel disease, psoriasis

別刷請求先

東京都新宿区百人町3-22-1

受付日

2019年11月11日

受理日

2020年1月14日

日化療会誌 68 (3): 321-329, 2020