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書誌情報

Vol.68 No.3 May 2020

総説

“碧素アンプル”の「重要科学技術史資料」への登録

八木澤 守正1), 松本 邦男2), 加藤 博之3), 岩田 敏3, 4)

1)慶應義塾大学薬学部
(旧 日本抗生物質学術協議会)
2)神奈川工科大学
3)日本感染症医薬品協会
4)国立がん研究センター中央病院

要旨

 “碧素”とは,第二次世界大戦の末期にわが国で独自の技術により製造されたペニシリンの和名であり,生産菌Penicillium属(アオカビ)の分生子の青緑色に由来する名称であるが,このたび,残存する唯一の“碧素アンプル”(1944年12月森永食糧工業株式会社製造;公益財団法人日本感染症医薬品協会所有)が国立科学博物館の管掌する「重要科学技術史資料」に選定され第276号として登録された。その“碧素アンプル”は,1973年に内藤記念くすり博物館が催した「ペニシリン展」において展示されて以来,同博物館に寄託され常設展示されているが,今般の選定により,わが国の医薬品研究開発の歴史の一項目の証として後世に伝えられることとなった。
 本稿では,“碧素”の研究開発が,陸軍軍医学校に設けられた「ペニシリン委員会」に科学動員として召集された医学・薬学・理学・工学・農学領域の第一人者である研究者たちの協力の下に進められたことを,適切な諸情報に基づき調査・解析して記述した。さらに,同委員会が英国や米国からの情報が得られない状況下にもかかわらず,わずか9カ月という短期間で目的とする“和製ペニシリン”を得て,その2カ月後には工場生産による“碧素アンプル”の製造に成功して,戦地の傷病兵や空襲による被害者の治療に実用するという,わが国が誇るべき科学技術史上の快挙がなされたことを記述して,「温故知新」の精神でわが国の製薬産業が再活性化されることを促した。

Key word

penicillin, antibiotics, fermentation, strain, historical material

別刷請求先

東京都目黒区八雲2-19-13

受付日

2019年12月2日

受理日

2020年1月22日

日化療会誌 68 (3): 330-344, 2020