Vol.68 No.4 July 2020
総説
日本発の抗菌薬開発の歴史と今後の展望について
杏林製薬株式会社*
要旨
現在,グローバルレベルで薬剤耐性(AMR)菌の増加・蔓延が大きな脅威となっている。この状態が続くとAMRによる死亡者数が飛躍的に増加し,経済的にも大きな損失が予想されている。この大きな社会問題に対して世界各国でAMR対策アクションプランが作成され,AMR菌に有効な新しい抗菌薬研究開発の促進も重要なテーマの一つとして取り上げられている。しかし,近年国内企業も含め多くの製薬企業が事業性,創薬研究・臨床開発の困難さなどの理由から新規抗菌薬の研究開発から撤退し開発パイプラインが世界的にも枯渇しており,“Pre-Antibiotic時代”に逆戻りするという危惧さえ出始めている。
このような状況を改善するために,グローバルレベル(特に欧米を中心)で新規抗菌薬の研究開発に対する促進策が動き始めている。これらの促進策(インセンティブ)の効果もあって米国では新規抗菌薬の承認数が最近増加しており,またWHOがまとめた世界の新規抗菌薬開発パイプラインにも活気が少し戻ってきている。
本稿では,これまでの抗菌薬開発における歴史の中で日本企業の果たした貢献を振り返りながらグローバルでの抗菌薬開発の現状と今後期待される日本における抗菌薬開発への取り組みをまとめた。
Key word
antibacterial agent, antimicrobial resistance, drug discovery, Japan
別刷請求先
*東京都千代田区神田駿河台4丁目6番地
受付日
2020年1月14日
受理日
2020年3月18日
日化療会誌 68 (4): 499-509, 2020